卒業式

今年の卒業式は、桜が満開になっていた。

午前中で式が終わり、3年生たちはそれぞれ話したり写真を撮っている。

保護者と生徒、教師でごった返す校舎を恭介とともに抜けていく。

「あっ!いた!」

階段まで来ると、姫名とマナが降りてくるところだった。

彼女たちの後ろから両親も降りてくる。

「「先輩方、ご卒業おめでとうございます」」

「「ありがとう」」

「これ、どうぞ」

手に持っていた紙袋を渡すと、姉妹はそろって不思議そうに首を傾げた。

それを持ったまま、両親を振り返る。

「この子達とご飯食べてくるね」

「ああ、わかった。夕飯までには帰ってくるんだぞ」

娘たちの荷物を取り上げた両親が、ニコッと微笑む。

「「ありがとう、お父さん、お母さん」」

声をそろえた姫名たちは、両親と一緒に階段を降りていく。

ひかりと恭介もゆっくりと後に続いた。

「私たち、邪魔だったかな?」

「どうだろ?俺もそう思ったけど先輩たちが嬉しそうだから、邪魔じゃないと思う」

「……それもそうね」

昇降口を抜けると、すでに姫名とマナだけになっていた。

ひかりたちが来るまでに両親は帰ったのだろう。

「2人とも!早く早く!」

手を振る彼女たちの手には花束が握られていた。



「改めて、姫名、マナ。卒業おめでとう!」

「今夜はご馳走だからいっぱい食べてね」 

「ありがとう!」

「これ、美味しい」

家族で食卓を囲みながら、マナはリビングに飾られた花瓶に目を向ける。

そこには恭介たちが選んでくれた花が生けられていた。

(本当に、卒業したんだなぁ)

卒業前にひかりとゆっくり話すことができてよかった。

大学に通い始めれば生活も変わる。

そうなれば、ひかりと過ごす時間が減ってしまうのは避けられない。

(だけど、私たちなら大丈夫だよね)

ひかりが大丈夫だと、思わせてくれるから。

花から目を逸らし、家族との談笑に花を咲かせた。



「まだ起きてたの?」

「マナ」

バタンとドアを閉めると、姫名が腰を浮かせた。

彼女の前にはダンボールが開かれていた。

「引越しの準備も大事だけど、もう寝ないと。日付、変わっちゃうよ?」

「本当だ!もう、こんな時間!マナは何しに来たの?」

「電気がついてたから様子を見に来たの」

「ありがとう。もう終わったよ」

姫名が柔らかく微笑みを浮かべた。

ゆっくりとベッドに座り、こちらに手招きしてくる。

「ちょっと話そうよ」

「うん」

電気を消して、スマホのライトをつけた。

隣に座ると、姫名が楽しそうに笑う。

「ん?」

「小さい時みたいだなって。よくこうやって、絵本読んだりしてたでしょ?」

「そうだね。…姫名はさ、恭介くんと結婚するの?」

「へっ!?……そんなこと、考えたことないけど……わかんない」

「ふーん?」

姫名は顔を赤くしながら「まだ学生なのに」と頰を押さえていた。

(まぁ、そうだよね)

マナ自身、ひかりとどうなるのか想像もつかない。

未来は予測不可能だからこそ面白いのだろうか。

姫名とひとしきり話した後、部屋に戻る。

空には満月が浮かんでいた。

(ちゃんと、卒業したんだな)

長かった片思いが卒業できたのは、ひかりのおかげだ。

マナは空を見上げて微笑んだ。

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