信頼する先輩
「やっほ〜、かなちゃん。久しぶりだね」
「マナ先輩!お久しぶりです!どこ行きますか?」
ベンチに座っていたかなは、通りのいい声に振り返る。
そこには、中学時代、お世話になったマナが立っていた。
「ありがとう、来てくれて」
「もちろんですよ!恭介のことですよね?いくらでもお話しします!」
「ありがとう。近くに、新しくできたカフェがあるんだけど、行かない?」
「喜んで!!甘いもの食べたかったんです!」
マナの誘いに、かなは瞳を輝かせる。
「わぁぁ〜!すっごく美味しい!!ありがとうございます、マナ先輩」
「可愛い後輩を呼び出したんだから、これぐらいしないとね」
「本当にいいんですか?ありがとうございます!しっかり味わって食べます!!」
モグモグとケーキを食べるかなに微笑みながら、彼女は真っ直ぐにかなを見つめた。
マナの視線に気付き、かなはフォークを置いて彼女を見返した。
「恭介は、好きな人いませんよ」
「そうなの?」
「はい。姫名先輩とも仲がいいですけど、好意を寄せられているかもとか微塵も思ってないみたいです」
「ふーん……。意外と鈍感なんだね」
「意外でもないですよ。私と別れた後も、他の子からアプローチされてたけど、全く気づいてなかったんですから」
「あはは!それはそれは。恭介くんらしいけどね」
「恭介の、何が気になってるんですか?」
かなの言葉に、マナはピタリと動きを止めた。
眉を下げ、力無く笑っている。
「……優しさ、かな。無条件で人に優しくできるところ」
無条件で人に優しくできる、優しさ。
その言葉を聞いて、かなも恭介の優しさに惹かれたのだと思い出した。
(幼馴染だから一緒にいる時間が長くて、気づくのに遅れちゃったけど)
恭介は、いつだって優しいのだ。
それはマナの言う通り、かなにだけではない。
誰彼構わず、困っている人に手を差し伸べる。
見返りを求めない優しさだからこそ、マナも好きになったのだろう。
(もしかして、マナ先輩は、あの時のー)
言葉にしようとして、途中で辞めた。
「かなちゃん?どうしたの?」
「いえ、何でも。頑張ってくださいね、マナ先輩。応援してます」
「ありがとう」
ケーキを食べ終わり、カフェを出る。
(言わなくても、恭介なら思い出すかな)
マナと出かけてから1ヶ月が経ったある日の放課後かなは姫名と出会した。
「姫名先輩、こんにちは」
「こんにちは。……ええっと?」
「かなです。神山かな」
「神山さん、こんにちは。…あら、あなた、マナの後輩?」
「そうです。中学の部活が同じだったので。知ってるんですか?」
「ええ、マナからよく話を聞いていたの。信頼できて可愛い後輩だって」
これは本当に、かなのことを言ってるのだろうか。
マナがかなのことをそんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
(私も信頼できるなって思ってたけど…)
少なくとも、中学時代のかなはマナにとって恨みの対象だったはずだ。
しかし、目の前で笑う姫名の瞳には、一点の曇りもなかった。
何かを誤魔化しているようにも見えない。
「それじゃ、またね。神山さん」
佳奈が答える前に、姫名は踵を返す。
『神山さん』、そう呼ばれた時、少し胸騒ぎがしたのは気のせいだろうか。
(何か引っかかる)
マナも姫名も悪い人ではない。
寧ろ、全校生徒から人気があるほどだ。
性格もいいと先生たちの間で評判になっている。
それでもかなは、別々に青栁姉妹と話したことで言いようのない予感に囚われていた。
ーややこしいことに、ならないといいけど。
嫌な予感をかき消すように、家まで走った。
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