マリア
クロウは意を決し、あの小瓶を出す。
「これは……僕の妹のマリアの小指です。ピースフルにさらわれ、想像を超えるような拷問と陵辱をされた上に虐殺されました。ここでマリアを復活させてもそれは本物でない事は百も承知です。……でもあの天使のような笑顔をもう一度見たいんです。蘇生をお願いいたします」
先生は唸っている。
「蘇生してもお前さんの事は分からんぞ。多分。それでいいんじゃな」
「はい。覚悟してます」
「よし、その小指をプールに入れるがいい」
クロウは小瓶から干からびかけた小指を取り出しプールにつけた。そして祈りをささげた。
また食堂に戻る一行。
「ところでお前さん達は電気というものを知っとるのか?」
「なんだそりゃ」
スピードが相変わらずすっとんきょうな声を出す。
「機械のエネルギーのようなものだ。この部屋が昼のように明るいのも電気のおかげなのじゃ。文献によればエネルギー源は『核融合電気』で動いている。その期間はなんと一万四千年に及ぶ。それまでに人類が核融合電気を解消する手段がなければ一気に核融合が進みβ星で核融合爆発を起こしジエンドじゃ。これがわしの使命だと思っている。なかなかにヘビーな事じゃて」
意味が分からない四人はポカンと聞いていたが、「頑張ってください」と声をそろえて言った。
「さあ、もう夜じゃ。ここでマリアとやらを待つか、ラボで待つか」
全員ラボを選んだ。
「あと一時間ほどじゃ」
先生が腕に巻かれている妙な機械を見て言う。
「クロウ。お前さんは警察を復活させると言ったな。具体的にどうするのじゃ」
クロウは目を斜め上にし、考えている。
「よければ先生に警察機構の在り方などを教えていただければ……」
先生が腕を組み考えている。そしてクロウとロードを見る。
「分かった。わしも自分の仕事があるが付き合ってやろう。一日三時間、みっちり教えてやるぞい」
「やったー!」
無邪気に喜ぶクロウとロード。
ラボの待ち合い室で「コーヒー」なる飲み物を飲んでいる。
「これ美味いわー。何だこれ、香ばしい匂い」
スピードの言葉に唸る一同。
「コーヒーが気に入ったか。あとで栽培法の文献を渡してやろう」
ズズが張り切って答える。
「それあたしがやる。こうみても故郷の家でミージュの栽培やってるのよ」
先生が先ほどの機械を見ている。
「もうそろそろじゃ。行くかマリアの復活を見に」
一同「おう!」と立ち上がる。
プールの部屋に来た。一人の女性がぷかりと浮かんでいる。
ズズがバスローブを持ってハシゴの所で待つ。
「スケベな男がそろっているからね」
とズズ。
先生が機械を見て言う。
「いま97%じゃ。あと十分」
カウントダウンが始まった。
「5」
「4」
クロウがじっとプールを見つめている。
「……1、0」
先生が機械を止める。
「あなた、こちらへ来て」
ズズの言葉に従い、女性がハシゴの所へ行く。
バスローブを着て、クロウ達の前にきた。
光るようなブロンドの髪にまだあどけないという言葉が似合う、美しすぎる顔。グリーンの瞳は吸い込まれるほど深く、なびかない男はいないだろう。
「ま、マリア……俺だよ。兄ちゃんだよ。覚えてるだろ……」
「兄ちゃん……」
クロウが涙ながらに抱きしめる。
「あいつらみんな死刑にしてやる!この世界から悪を一掃するだめに!見せしめにまずはピースフルを全員殺してやる!」
その鬼気迫る目は怨念で燃えるようで、それを見ていたロードはクロウの覚悟を受け止めた。
「手がある俺はどうだ?」
「カッコイイ……♡」
まぁ、この二人はこれでいいのではないか。
と、突然マリアの足元から黄色い液体が。
「うう?ションベン?」
目を白黒させるスピード。
先生が首を振る。
「そんなもんじゃ。まだオツムは赤ん坊じゃ。クロウが世話を焼かにゃいかんぞ」
「……分かりました、でもここから成長はするんですよね」
先生は考えている。
「んー、分からんのう。人を作り出すなんぞは初めてじゃからのう。かわいい妹じゃろうが。やるしかあるまい」
「了解です。赤ん坊と思い育てていきます」
クロウはバスローブを取ってきて着替えさせてやる。
「ラボの近くに日用品販売所があって、そこに紙オムツがある。まずはそれで凌ぐしかあるまい」
クロウはマリアの手を取り、販売所に向かった。
「お前さんらは夢が叶ったようじゃの。これからどうするよ」
「しばらくここに滞在して旅の疲れを取りたいと思います」
ズズの言葉にスピードも首を縦に振る。
クロウとマリアはようやく販売所に到達した。中に入ると薄暗い。
マリアが突然両手を広げ叫んだ。
「ルーメン!」
ピカッ
煌々と辺りが信じられないほどの光で満たされる。クロウはとにかく眩しい。
「生まれついての異能のようだな。マリア、あまり異能を人前で使わない事だ」
マリアが手を下ろす。
従順な性格は変わらないようだ。
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