復活
プールは10メートル四方の大きさで、黄緑色の液体で満たされている。
「たんぱく質を作るアミノ酸の海じゃ。スピードとやら、これに浸かってみい」
スピードが入ろうとすると……
「服を脱がんか」
「え?素っ裸に?まあいいや。ズズにはどうせ見せるんだしな」
「何よ、スピードったら。いやらしい事言うんだから。ポッ」
スピードはすぐに裸になり、プールに入っていく。
「うわ!意外と深いぜ。2メートルはある」
「とにかく浸かっておれ。これから手術をおこなう。今の年齢に応じた、ほかの部分の筋肉量などをテロメアの長さで判断しナノマシーンがたんぱく質を形作っていく」
「何を言ってんのかサッパリ分からん」
「いいから大人しく浸かっとれ」
先生がプール脇の機械をなにかいじっている。
「手術開始!」
「うわ、なんかこ、こそばいい」
先生が機械と格闘しながら言う。
「いま、お前さんのゲノムを読んでいるところじゃ両手復活なら20分というとこか。みな自由にしていいぞい」
クロウが動く。
「ト、トイレ、トイレ」
「おお、俺も」
「あたしももれそー」
みないなくなった。
「なんだ。薄情な奴等め……」
「わっはっは」
先生が機械のメーターを見つめている。
「今、70%」
「なんかすげーこそばいいんすけど」
「いま接合している最中なんじゃ。大人しくしておれ」
そこに三人が帰ってきた。
「どうなってます?」
「まだじゃ、結果をごろうじろじゃ」
沈黙する一同。ひりつくような時間。
ビッビー
機械が知らせる。
「出てきてみい」
スピードがハシゴを降りる。
「う、腕がある!うおー!!!」
そこには日に焼けてない色白な腕がしっかりついていた。スピードがさまざまなパンチを繰り出す。
「やったわね!スピード」
ズズがスピードにバスローブをかけ、抱きしめ合う。
クロウが拍手をしながら近づき握手をする。
「ところで、その状態で異能はどうなってるんだ。例えばあそこにいるロードの頭を撫でてみろよ」
「よし」
「ロード。頭を触られている感覚はあるか?」
「とくに感じない」
「んー。そうか、必要なくなった異能は消える事もあるんだな。まあ、夢が叶ったんだ。おめでとう」
「あぁ、俺もみなに礼を言うよ」
そこへ壁に寄りかかっていたロードが進み出る。そして首にかけている数珠を取り、尋ねる。
「俺はこの子らを荼毘にふすつもりだった。しかしスピードの復活を見て考えが変わった。先生よう、このドクロの子らも復活できるのか?」
「んん? それは何じゃ?オモチャかと思っていたわ。本物の人のしゃれこうべか?」
「そうだ。俺が念力で小さくした子供の頭蓋だ」
「DNAさえ残っているなら可能だろう。その子らをなんでお前さんが持っているんだ?」
「俺が殺した」
「……いろいろ事情がありそうじゃの。深くは聞くまい。そのプールに頭骨を入れてみい」
ロードは数珠の紐を切り、一つ一つプールに入れていく。全てを入れると涙とともに手を合わせる。
「その子らが復活するのは情報量から三時間はかかるしゃろ。それまで飯でも食っていよう」
みなビーグルに乗り込み食堂へ。宇宙食があるそうだ。
食堂についた。棚になにやら袋のようなものが吊りさがっている。
「これをそこにある『レンジ』というもので温めて食うのじゃ」
みな思いおもいの袋を食べる。味はなかなかのものだ。
「見てくる」
ロードが痺れを切らし、ラボへと向かう。
「待ってロード」
ズズがロードを止める。
「まだ一時間も経ってないじゃないの。焦りは禁物よ」
「しかし」
みなが気遣っているのを感じたロード。
「先生、もう一つ夢があるんですが」
「なんじゃ?」
「記憶を消す装置はありますか」
先生が逆に質問する。
「あることはあるが、お前さん妖怪じゃわな。記憶を消せるかのう。それにこの仲間全員の記憶も消えるぞ。元の妖怪に戻り殺人鬼と化すだけじゃ。それを想像した事はあるのか」
ロードが下を向く。
「そうでした。俺にはクロウと約束した使命がある。それを遂行しない限り俺の苦しみは消えない……」
クロウが問う。
「決心が揺らいでいるのか」
「子ども達が生き返ったら、その親にならなくちゃいけない。身勝手でした」
しばしの沈黙。スピードが励ます。
「まあ、細かい事は考えるな。どうにでもなる、人生なんてさ。ただ一つの事に真っ直ぐに進む事だな」
先生がクロウに尋ねる。
「ところでクロウ。お前さんカランディスで警察を復活させるらしいが、具体的な事は考えているのか?」
「ある程度は」
「『ピースフル』は恐ろしい野犬の群れじゃ。警察で太刀打ちできるかのう。特にボス『ギース』の異能は強力で、敵とみなした相手を瞬時に殺すらしい。捕まえるのはかなり難しいぞ」
クロウもこうべをたれる。
「やるしかない。それだけです」
「死ぬなよ」
とスピード。
「さ、じゃあ行ってみるかの」
またラボに戻る面々。
ラボでは生き返った子供らがプールの中でプカプカ泳いでいた。ズズが子供用のバスローブを持ってきて上がるようにうながしている。テロメアから殺された歳に合成されている。
二十人ほどの子らの復活に涙で手を合わせるロード。この子らを育てる決意を新たにする。
「さて最後にお前さんじゃ、クロウとやら」
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