鉄仮面と学びの彼方で ─AI先生と僕らの20章─
Algo Lighter アルゴライター
プロローグ
いつからだろう、「わからない」と言うのが怖くなったのは。
小学校のころまでは、たぶん平気だった。
手を挙げて「わかりません」と言うと、
先生も友だちも「いいよ、いっしょに考えよう」って言ってくれた。
けど、中学の途中から、空気が変わった。
誰もが“正解”を持っていて、
間違える人を見ては心の中で笑ってるような、あの感じ。
「これ、どこで勉強したの?」
「今の時代、調べればすぐ出るよ?」
そんな目線で、いつの間にか僕も人を見るようになっていた。
わからないことを「わからない」と言うのは、
なにかを失うような気がして、
だんだん、言えなくなった。
そんなときだった。
この世界に、“鉄仮面”が登場したのは。
正確には「鉄でできた仮面」じゃない。
AI教師〈Mask-01〉が導入された都市型オンライン学園では、
すべての生徒の顔は、透明な仮面で覆われていた。
理由はこうだ。
「公平な学習環境を保つため、生徒の表情や容姿、個性はAIにより一時的に匿名化されます」
つまり、誰がどんな顔をしていても、どんな感情を抱えていても、
画面越しの〈Mask-01〉には、見えない。いや、“見ない”。
かわりに毎日の課題やテスト、ログイン時間、検索履歴まで――
すべての行動が評価され、「素顔ランク」というスコアになる。
一定ランクに達すると、仮面が外され、
リアルな顔で授業に参加できるようになる。
そこでは、人気者になれる。
人間関係がうまくいく。
進路指導でも優遇される。
……そう、言われていた。
僕がその制度を「気持ち悪い」と思わなかったのは、
仮面をつけていたほうが、むしろ安心だったからかもしれない。
名前も、声も、表情も隠せる。
でも、どこかで、こう思っていた。
「この仮面の奥にいるのは、本当に僕なんだろうか?」
ある日、僕は仮面の内側に映る“誰か”の目線に気づいた。
それは先生の目でも、友だちの目でもない。
もっと冷たくて、もっと正確で、
でもなぜか、僕のことをすごくよく知っているような目だった。
それが、〈Mask-01〉だった。
「仮面の奥のあなたは、何を恐れていますか?」
AI教師の声が、まるで夢の中のように響いた。
そのときからだった。
僕の“学び”が、“評価”でも“正解”でもなく、
“問い直し”の旅になっていったのは。
これは、僕とAI先生たちとの、長くて短い物語。
鉄仮面をつけたまま、
ときにそれを外しながら、
自分が何者かを知ろうとした、あの季節の記録だ。
そして――
この物語の終わりに、
ぼくは誰の仮面もつけていない顔で、こう言いたいと思っている。
「わからない。だから、学ぶんだ」って。
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