第39話
【アキゾラ視点】
命の危険を感じる。
俺はアサシンパペットが怖い。
昔の事を走馬灯のように思い出す。
俺の両親は気が強かった。
多分どっちも元ヤンキーだ。
親父は大工でおふくろが居酒屋で働いている。
俺は長男で妹が2人と弟が1人の6人家族だ。
家は貧乏な方だった。
俺には魔力があった。
喧嘩も強かった。
冒険者になれば冒険者候補生として国から補助が出る、それだけの理由で訓練を受け始めた。
冒険者になれなくても補助が出るだけで家の足しになる、そう思っていた。
俺は冒険者としての才能はあったんだと思う。
期待されているのも分かった。
俺より年上の大人が昇給試験を突破できずに諦めていった。
中学に入るととんとん拍子で試験に受かっていった。
そして1級に合格すると大人3人、そして幻獣1体と一緒にダンジョンに行った。
その時の俺は冒険者になれば金を稼げる、その程度の考えだった。
初めてのダンジョン、最初は順調だった。
「モンスターが少なすぎる、少しだけ奥に行こうか」
それが悪かった。
「何でここにレベル3がいるんだ!」
パーティーの前にアサシンパペットが現れた。
俺より強かった3人が殺されていく。
アサシンパペットは攻撃を受けながらも倒れる事が無く俺を狙う。
「うあああああああああああああああ!」
逃げられない事を悟った俺は必死で拳を繰り出した。
ナイフを突き立てられてもオーラを込めてひたすらに殴った。
「おらああああ!」
そして渾身の右ストレートを叩きこんだ。
弱ったアサシンパペット、それでも俺より遥かに強いのが分かる。
アサシンパペットが止まるとゆっくりと右腕を上げた。
そして俺を指差したかと思うと霧に変わった。
ギリギリだった。
もし最初に俺が狙われていれば俺は死んでいた。
もう少し攻撃が弱ければ俺は死んでいた。
1回でもナイフの攻撃を首や頭、腹に受けていれば俺は死んでいた。
アサシンパペットがもう少し元気なら俺は死んでいた。
助けが来てダンジョンを出てからずっと考えた。
みんな俺より強かったのに死んだ。
俺は運が良かっただけだ。
俺は頑張って訓練を受けてきた。
運で生き残るなら、
俺は、
何で苦しい訓練を受けているんだ?
冒険者を辞めれば家が苦しくなる。
頭の中をその考えが支配して何度もくるくると回るように悩み続けた。
そして思った。
ダンジョンの奥には行かない、訓練もほどほどでいい。
死ぬときは何をやっても死ぬ。
冒険者として上に行く意味はない。
タイヨウと初めて出会ったのはそんな頃だった。
大人の意図が分かった。
俺にやる気を出させたいんだな。
うぜえ。
俺が子供に当たり散らしたらどうするんだ?
まあ、そんな事はしねえけど。
タイヨウが頑張っているのを見ると昔の俺を思いだす。
大人の思惑通りなのが気に入らない。
俺の心をコントロールしようとするなよ。
だが、頑張っているタイヨウの事は嫌いじゃない。
1つだけ、決めていた事がある。
パーティーの仲間がピンチに陥ったらどうするかだ。
俺はタイヨウを追い越して走った。
そして止まる。
自分に言い聞かせていた事を思い出す。
『拳がぶっ壊れるまでモンスターをぶん殴る!』
そして声にする。
「タイヨウ! 逃げろ! 拳がぶっ壊れるまでモンスターをぶん殴る!」
俺はアサシンパペットが怖い。
自分でここまで言わねえと動けねえ。
俺は反転してアサシンパペットに向かって走った。
勢いを付けてありったけのオーラを拳に込めた。
「おらああああああああああああああああああああ!」
アサシンパペットの腹を狙うと腕で防がれた。
ナイフを持った腕を叩き落とすように殴る。
ナイフを突き立てられても構わず殴る。
何度も殴って分かった。
勝てない。
だがそれでいい。
タイヨウがダンジョンから出られる。
その時間は稼げるだろう。
腕を何度も斬りつけられた。
殴ると血が飛び散る。
息が、切れてきやがった。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
後ろから熱い炎を感じた。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
後ろを見るとタイヨウがいた。
「はあ、はあ、なん、で、タイヨウが、まだ、いるん、だよ」
タイヨウは何かに取り憑かれたような目をしていた。
その目は真っすぐにアサシンパペットを見つめる。
「あああああああああ!」
タイヨウが拳を構えてアサシンパペットに飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます