第20話
訓練盆地に通って3日目、走り込みを終えると先生に指導を受ける。
僕の隣にはリコとアキもいた。
「おし、では今からタイヨウの実力をチェックする。出来ない事があってもいい。誰でも課題があってみんな自分と向き合っている」
「オス!」
「では、炎を出してくれ」
「オス!」
右手を上げて直径1メートルほどの炎の玉を作る。
その瞬間に皆が僕を見た。
「な、子供なのにあんな炎を出せるのか!」
「まだあんなに小さいのに凄い!」
「リコに聞いてはいたが、ここまでの天才か」
僕は自分の問題を言った。
「炎のコントロールがまだ完全には出来てない、です」
「問題意識も正確だ。いつまで炎を出せる?」
「もっと長く」
「その状態を出来るだけキープしてくれ」
「オス!」
僕は炎の玉をキープした。
みんなが訓練に戻っていく。
でもちらちらと僕を見ていた。
◇
「はあ、はあ、はあ、もう、きつい」
「よし、ストップだ。今日の訓練は終わりだ」
「ええ、もう時間?」
「いや、負担をかけすぎた。ジュースを買ってくる。何が飲みたい?」
「オレンジジュース!」
「買ってくる。もし無かったら炭酸でもいいか?」
「うん!」
僕はタオルで体を拭いてジュースを飲んだ。
「美味しいか?」
「おいしい」
「先生、明日は何をするの?」
「明日は鬼ごっこ・攻撃・回避、どれからがいい?」
「鬼ごっこ!」
僕は鬼ごっこが得意だ。
「決まりだ」
「明日に備えて練習しよ」
僕は丸太の上をぴょんぴょん飛び回る。
足裏から炎を出して飛ぶように飛び移るのが楽しい。
「タイヨウ! 無理はするな!」
「ええ! 魔力が回復して来てるから大丈夫なのに!」
「リコ! タイヨウは本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です。タイヨウは魔力の回復力も異様に高いので。それに、今のタイヨウは脚裏から出す炎を手加減しています」
「あれでか?」
「ええ、手から全力の炎を出すのは怖くても、脚裏から出すのは平気みたいです」
「……普通は、逆なんだがなあ」
【次の日】
僕は先生から逃げ回る。
「タイヨウ、本気で走っていいぞ!」
「でも、リコが炎を全力で出しちゃダメだって!」
「今は出していい!」
僕は脚裏に炎を発生させる。
そして全力で走る。
先生を引き離した。
「速い! オーラを強く使って追いかける!」
先生がオーラで光ると速くなった。
「うあああああああ! 来たああああああ!」
「ほらほら! 全力で走れ!」
「うあああああああああああ!」
訓練をしていたみんなが僕を見る。
「タイヨウ、すばしっこいな。あの炎、凄くね?」
「ああ、普通あれだけ炎を出したらすぐに魔力切れになる」
「先生が結構早く走ってるよ」
「てか、バテないんだな」
僕は逃げ回って先生に捕まった。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「スタミナも逃げ方も問題無い。鬼ごっこは合格!」
「やったあ!」
僕はジャンプして喜んだ。
「次は回避、行けるか?」
「オス!」
2人で壁に囲まれた場所に移動した。
「先生が竹刀を持って攻撃する。ガードか回避、何でもいい。凌いでくれ」
「オス!」
先生が竹刀を振りかぶって距離を詰める。
僕は横に飛んで避けようとした。
でも先生が方向転換をして迫ってくる。
更に横に避けても迫ってきた。
竹刀が振り下ろされた瞬間、右手に炎を出して殴った。
でもオーラに覆われた先生の竹刀は壊れない。
先生がまた竹刀を振りかぶった。
左手のファイアパンチで竹刀を弾く。
何度ステップを踏んでも距離を詰められて竹刀の攻撃を避けられずファイアパンチを連打して弾く。
先生が後ろに下がった。
「よし!」
「ヨシ!」
「次は攻撃だ、タイヨウ、俺に一番強い攻撃をしてくれ」
「ええ、でも炎を人に向けちゃダメだって言われてるから」
「大丈夫だ、俺はアキと同じオーラタイプでアキより強い。ふん!」
先生がオーラを放出する。
それだけで衝撃波が発生した。
「おお! 凄い! これなら大丈夫だね」
「ああ、来い!」
「はあああああああ!」
右手に炎をまとった。
「ファイアパンチ!」
「ふん!」
「あああああああああああああ!」
制御できるぎりぎりまで拳から炎を出した。
先生が炎を両手で受け止める。
「よし!」
「ヨシ!」
「鬼ごっこ・攻撃・回避、全部終わり」
「オス!」
「……タイヨウの課題が見えた。タイヨウは型の基本動作、そして攻撃を当てる瞬間に炎の力を爆発させるタイミングを意識して欲しい」
「オス!」
「今日は終わりだ」
「ありがとうございました!」
僕は水分補給してバスに乗る。
【リコ視点】
指導を行う先生が歩いてくる。
「リコ、手を回復してくれ」
先生が手を出すとグローブが焦げてダメになっていた。
露出した手が焼けている。
このグローブは冒険者が装備する丈夫なものだ。
「……どうしたんですか? その火傷」
「タイヨウのファイアパンチを受け止めた」
「アレをですか! すぐに治します」
先生の傷を治した。
「オーラガードで行けると思っていた。タイヨウのファイアパンチは制御できる程の炎しか出せていなかった。パンチの動きも粗があった。炎を瞬発的に燃え上がらせる技量も足りていない。それでもこの火傷だ」
「タイヨウの炎は強いですから」
「ああ、もしも、タイヨウの炎コントロール、体術の改善、この2つが噛み合えばファイアパンチは恐ろしい威力になる。流石ボスキラーの属性タイプだ」
「見切りが甘かった。俺もまだまだだな」
「先生がそれを言うなら、私はもっと努力が必要です」
「リコ、治療ありがとう、その魔力コントロール能力は俺を超えている。いい刺激になった。それと、俺がケガをした事はタイヨウには黙っていてくれ」
「はい、タイヨウが知ると気にすると思います」
「俺もそう思う」
まだ訓練盆地での訓練は始まったばかりだ。
それなのにタイヨウは冒険者の先生の予想を超えてケガを負わせた。
タイヨウがここで訓練を続けたら、間違いなく伸びる。
何も考えず前に進めるタイヨウは本当に強い!
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