第5話 ハイエルフの貴族を助ける

 おいおい、世界に危機はないって言ったばかりじゃねえか。エライ人がめっちゃ狙われているが?


 馬車を襲っているのは、ウルフに乗ったオーガだ。身体は成人男性並みながら、腕っぷしは強そうに見える。


 車輪部分が破壊され、馬車が転倒した。


 馬車から、白いローブに身を包んだ背の高い女性が這い出てくる。えらいデカいな。一八〇センチ近い。オレとどっこいどっこいじゃないか?


「ギャハーッ! ハイエルフの女! 魔王様復活のために、ムーンストーンを渡せ!」


「誰があなた方のような、邪悪なものたちなんかに!」


 女性が、下げている首飾りを握りしめた。


 ハイエルフ? なんてフラグビンビンなお方を。


「だったら死ねえ!」


 オーガの棍棒が、ハイエルフのお嬢さんに当たりかけた。


「闇の炎よ、邪悪なる力を飲み込め! 【シャドウブレイズ】!」


 モモコが手から、黒い炎の弾を放つ。


 黒い弾は、棍棒を飲み込んでしまった。


 オーガがつんのめる。


「よし! 喰らえ!」


 隙だらけになったオーガを、オレは一刀のもとに斬り伏せた。


 わお、レベルが一気に上がったぜ。


「なんだコイツラ!?」


「いいから殺っちまえ!」


 仲間のオーガたちが、集まってきた。一気に五人も増えなさったぞ。円状に取り囲み、オレたちを威嚇してくる。


「やれそうか?」


「多分、ここでできないと私たち主人公じゃないよ。クニミツ」


 メタい。


「だよな! やってみるか! ランチェスター戦略だ」


「はっ?」


「二人で一体ずつやっつけるの!」


 専門用語は、わかりづらいか。


「ウルフが早すぎて狙えない!」


 さすがのモモコでも、ウルフの高速移動には追いつかないようだ。


「モモコはオーガを倒せ! オレがウルフの足を止める!」


「OK!」


「行くぜ、【震脚】!」


 オレは、相撲の四股を踏む形で片足を高く上げて降ろす。


 ドン、と地面が揺れた。ウルフが転倒する。


「今だやれ!」


「ファイ……アイスジャベリン!」


 炎を放とうとして、モモコは躊躇した。攻撃を、氷の矢に切り替える。

 

 三体を撃退した。しかし、ためらった分、敵を残してしまう。


 攻撃を受けなかった二体が、息を吹き返した。一体はこちらに、もう一体は、さっきのお嬢さんの元へ。


「ごめんしくじった!」


「気にするな。モモコは、お嬢さんの援護に行ってくれ。コイツはオレが仕留める!」


「わかった!」


 周囲を見回し、モモコが攻撃できなかった原因に気づく。


 森に火が燃え移るのを、避けたのか。

 お嬢さんを助けたときは道沿いだったが、今は森の中だ。


 だからオレは、モモコを行かせた。アイツは足が速い。また、草原なら魔法も打ち放題だから。


 震脚のクールダウンが、終わらない。もう一発は無理だ。


 オレは、盾をウルフに食わせる。防具を失うが、死ぬより安い。


 アゴを壊し、ウルフが暴れ出す。


「くそが!」


 オーガの棍棒が、オレの横っ面を狙う。


 相手の攻撃に合わせて、オレは剣を振るった。


 オーガの腕が、吹っ飛んでいく。


 マトモにあたっていたら、こっちの頭が弾け飛んでいただろう。


「ぬううう!」


「トドメだ!」


 がら空きになった心臓部を、剣で突き刺した。これで、武器も潰れてしまう。やはり、拾い物のノーマル装備ではこの程度か。


 代わりに、オーガが剣を落としてくれた。両手持ちか。やや重いが、攻撃も防御もこなせる。今後は、こっちメインで行くか。


「そっちはどうだ、モモ、コ?」


 オーガが、ハイエルフさんの放った食虫植物に飲み込まれている。


 モモコの出番は、どうやらなかったようだ。


「危ないところを、ありがとうございました。ワタシ一人では、あれだけの数には敵いませんでした」


「いえ。無事で何よりです」


「ワタシはドリス。アンファンの領主である、ティーレマン伯爵の妻です」


 人間とハイエルフのご夫妻か。


「ご丁寧に。オレはクニミツ。こっちは、ブラウなんだっけ?」


「ブラウ・ドラッヘ」


「そうそう。ブラちゃんです」


「だからブラウ。ドラッヘ……」


 オレたちが漫才をしている間、ドリスさんは「失礼して」と頭を下げた。馬の足を治療する。


 こちらはモモコと協力して、馬車を起こした。


「こいつは、【クラフト】の出番だな」


 生産スキルを発動する、絶好の機会だ。


 適当な木の枝を拾って、馬車の駆動部分に当てる。


「クラフト」


 折れた駆動箇所が、元通りに。

 マジかよ。クラフト魔法一発で、馬車の車輪が直ってしまった。


「まあ。あきらめていましたのに」


 ドリスさんの顔が、明るくなる。


 驚いていたのは、オレたちの方だった。まさか、本当に修理ができてしまうとは。馬車の組み立てなんて、なんの知識もないのに。


「いえ。これくらいどうってことないです」


「お二人さん、よろしければ街まで乗っていらして」


「いいんですか?」


「お屋敷でお礼もしたいので、ぜひ」


 ならばと、お言葉に甘えることにした。


「はぐれた護衛のために、信号弾を撃ちます」


 指で耳をふさぎ、ドリスさんが指から魔法を空へ放つ。カラフルな煙の弾が、上空で弾けた。


「これで、護衛の方たちも私の無事がわかるでしょう」


 オレたちは、ドリスさんに催促されながら馬車の中へ。


 馬車は、元どおりに動いている。やはりというか、揺れるために尻が痛い。


「護衛も連れずに、お一人でなにをなさっていたんです?」


 仮にもドリスさんは、貴族様だ。御者さんだけで逃げていたなんて。


「他の者たちは、倒されてしまいましたの。あれでも、オーガの数を減らした方でしたのよ。でも、あなた方のように戦力を集中して戦えばよかった」


 だから、一人だけで戦っていたのか。かく乱して戦ったのが、アダになったのだろう。


「どうして襲われたんです?」


「魔王復活を企む一団の証拠を、ダンジョンまで確かめに行ったのです」


 入り口は見つけたが、返り討ちにあってしまったという。


「腕のいい冒険者も連れていたのですが」


 どうもオレたちは、この世界の住人より一〇倍近くスキルポイントをもらえるようだ。

 だからあんなに、たくさんのスキルが取れたのか。パワーアップも早かったし。

 チートはいらんといったのだがなぁ。


「本当にありがとうございます。お礼なんですが、なにに致しましょうかしら?」


「街まで乗せてもらうだけでも、十分ですよ」


「ここから馬車で二時間もかかりません。お礼にはならないでしょう」


 考え込んでいる間に、アンファンの街へ入った。


「街で考えましょう」


「そうですね」


 馬車の窓から景色を眺めながら、オレたちはドリスさんのいるお屋敷に。


「おお、ドリス! 無事だったか! 信号弾の煙を見たぞ!」


「ごめんなさい、あなた。勝手に飛び出してしまって」


 屋敷から、ヒゲの男性が現れた。男性は、ドリスさんが抱き合う。ドリスさんと違い、あちらは普通のおっさんである。


「こちらの方たちが、助けてくださったの」


「おおそうか。ありがとう」


 彼が、ティーレマン伯爵だそうだ。


 伯爵の誘いで、昼メシまでいただいてしまった。


「お礼の品か。そうだ。あそこなんてどうだ?」


 ティーレマン伯爵が手を叩くと、ドリスさんも「ああ」と相槌を打つ。


「冒険者さんなのよね? おうちなんていかが? アイテム保存などで、なにかとご入用でしょう?」


 まさかの家ゲットフラグが立った。なんだってんだ?


「私のお屋敷から少し行ったところに、ボロボロの小屋がございます。昔ノームが、アイテム製造の作業場として使っていたところなんです。今は誰も使っていません」


 そのノームは、もうヨソの山へ引っ越していったらしい。


 街からも近く、買い物や食事をしたければすぐに寄れる。


「どなたかが入ってくださると、大変ありがたく思います。もう雑草まみれでして。それでもよろしければ」


「ちょっと相談します」


 オレは、モモコと話し合った。


「どうだ? ボロっちいが、オレたちに城ができる」

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