第3話 ハクスラと文明病

 さて、草原にポツンと取り残されたわけだが。


「おっ、ちゃんといるな」


 モモコの姿も確認した。


「おっさ……クニミツさんだっけ? 服が」


「ん? おおっ」


 オレの装備が、剣士の姿になっている。ロングソードと、腕に円盤状の盾か。


「へえ。サマになってんじゃん」


「いやこれ、あれだ。元は傘と腕時計だな」


 持っていた傘と腕時計が、剣と盾に変化しただけだな。重さが同じくらいだもの。変化したのは武器と盾だけのようだ。スーツは変わっていない。


「じゃあ、私のこれも?」


 モモコが片手に持っているのは、杖とデカい魔導書だ。

 彼女も、服装は制服のままである。


 杖には先端に、紺色の小さい石が取り付けられていた。


「杖は、なにが変形したものかわかるか?」


「多分だけど、折り畳み傘かな?」


 夕立が来ると天気予報で言っていたので、常備していたという。


「魔導書は?」


「参考書かな。できれば、お金が欲しかったんだけど」 


「職業は、こっちで決めていいのか。ギルドで登録するものだと思っていた」


 さっそくオレは、【パラディン】のレベル上げを選択する。『教会を介さない、独自の神を信仰する職業』だという。教会の言いなりにならなくていいのは便利かも。でも信仰する神ってのは、おそらくあの女神かもなぁ。


「お前さんのジョブは?」


「えっと、ダークナイト……『禁断の闇の力を操り、相手を漆黒の炎に包む剣士』か」


 なるほど、よくわからん。


「なんかね、魔術師寄りの騎士をそう呼ぶみたい。剣術メインになると【サムライ】、体術寄りになると【クノイチ】になるんだって」


「クノイチ! おお、なんかエッチだ」


「うるせえセクハラオヤジ」


 オレも、魔法を使わないなら【戦士】になり、役割も脳筋的になるという。術をメインにすると、これまた筋肉ムキムキなイメージの職業【モンク】に変わるとか。


「ん? なんかアイテムボックスが震えてるぜ」


「私のも」


 オレとモモコの腰から、電話のベルが鳴る。オレは古風な黒電話の音、モモコはボカロ曲だ。


 スマホが使えるのかなと思ったが、違った。もっと薄型で、ネット機能のない端末である。


 着信が『女神』からということだけはわかった。


「もしもし?」


『言い忘れたが、とりあえずステータスとかはその端末で見られるから』


「そうか。よくある『ステータスオープン』とかはないんだな?」


『うちのシマではやらん』


 はっきり言いやがる。


「ちゃんと、お金が入ってる」


 モモコはちゃっかりと、所持金の額を調べていた。


「それくらいは、ボーナス関係なしに、くれてやる」


 ただし、この世界でギリギリ生きられるくらいには、制限されている。

 オレたちの要望で。


『あと、銃の実装はレベルが上がったら、【銃製造】にスキルポイントを振れば使用可能にするよ』


 それまで冒険をして、素材を集めて、レベルを上げろと。


「回りくどいな」


『目標があったほうが、楽しいだろ?』と言い残して、女神は電話を切った。


 たしかに。オレたちのような枯れた負け犬たちが、闇雲にサバイバルしても仕方がない。なにか熱中できるものがあれば、楽しいというものだ。


「スキルツリーの確認ができるよ」


 戦闘スキルと、生産スキルが分かれているのか。


 バトルしてレベルが上がると、戦闘スキルにポイントがもらえる。


 生産の方は、何かを作り続けることで経験値を上げていくらしい。


「めんどくさいけど、やりがいはありそう」


「やってみるさ」


 まずは、スキル振りを。


 スキル表は、ツリー型なんだな。スキルをポイントで強化していけば、より高いレベルのスキルを取れると。


「基礎能力は、勝手に上がってくれるんだな」

 

 オレは【ショック・ウェイブ】を取って、剣に雷属性をつける。その上位である、【パニッシュ・サンダー】を目指す。


「なにそれ? 名称が、やたら中二臭くね?」


天罰パニッシュによる、雷での近接範囲攻撃だってよ


 しらんけど。


「オレはヘイトを集めるのが、仕事っぽいからな。寄ってきた魔物を、一網打尽にする戦法で行く」


「ちゃんと考えてるんだね」


「お前さんは?」


「無難に、【ファイアーボール】と【アイスジャベリン】を強化」


 デフォルトで所持しているスキルに、ポイントを振った程度か。


「意外と、まともに振るんだな? お前さんは、もっと尖ったスキル振り方をすると思った」


 オレが聞くと、モモコは「チチチ」と指を振る。


「その先にある、スキルが目的」


 二つの基礎魔法を極限まで上げていくと、最上位スキル【メギド・シュート】が取れる。単体攻撃だが、全属性を貫通するのだとか。


「スキルツリーの終点じゃねえか。えらく遠いぞ。先が思いやられるな」


「まあまあ、見てなさいな。それよりさ、普通にいつもと変わらない召喚だったね」


「だな。洋ゲーとかだったら、『絞首刑にされた身体に、プレイヤーの魂が取り付く』って設定だったりするんだけどな」


「首吊りとか、やだなぁ……あ、出たよ。魔物」

 

 さっそく、第一モンスター発見だ。


 スライム状の怪物である。見た目はファンシーだ。名前も見た目通り、【スライム】でいいようだな。


「覚悟。とうっ」


 ポカっと殴ると、すぐにスライムは消滅した。


「私のポイントになれ、化け物ども! 【ファイアーボール】! からの、【アイスジャベリン】!」


 モモコは、魔法で焼くことにしたらしい。火の玉や氷の矢で、スライムどもを攻撃している。相手がポヨンポヨンな見た目でも、容赦しない。


「魔法の熟練度アップか?」


 この世界は、そんなシステムじゃないっぽいけど。


「違う。気持ち悪くて触れない」


 見た目はファンシーなのだが、やはり生理的にムリのようだ。


「とりあえず進むか。あそこに村が見えるから、あっちを目指そう」


「わかった」


 スライムを殴りつつ、先へ進む。


 スキルポイントを手に入れた。端末を操作して、スキルを取っていくようだ。


「クニミツさん」


「呼び捨てでいい。オレもモモコって呼んでいいか?」


「私は青薔薇の魔術師、ブラウ・ドラッヘ。ちゃんと覚えてオッサン」


「うるせえ、青トカゲ」


「なんで、ドイツ語がわかるかなぁ!?」


「リモートで海外の人を相手にするんだから、多少はな」


 ある程度の言語は、心得があるものだ。オトナをナメるなよー。


「で、なんだモモコ?」


「クニミツ、アイス食べたい」


「我慢しろよ文明病!」


 どうも、氷の矢を放っていたら、アイスが食いたくなってしまったとか。


「アイスって、生産スキルで作れるかな? もしくは、それこそチートでしかムリとか」


 そういうことを女神と相談しとけよな。


「砂糖かハチミツがあったら、かき氷くらいは作れるってよ。女神からのメールを確認しとけ」


 スライムどもを撃退しつつ、経験値を稼いでいく。


「おっ、レベルが上ったな」


 初のレベルアップが、発生した。

 

「えっと、【ビート・スラッシュ】、クリティカル率が二〇パーセント上昇だってよ」


 次は、【ガーディアン・ヒール】を取ればいいか。「相手の攻撃を受けると、回復に転換する」と。チートすぎだな。


 モモコも、【ダークナイト】のスキルレベルを上げた。


「スキルは、何を取った?」


「【エーテル・アイス】」


 このスキルは、魔力を回復するアイスを魔物から作り出す。


「スライムのアイスを、作ってみた」


 モモコはさっそく、アイスを食べていた。食いたいって言っていたもんな。


「うん。ソーダ味のシャーベット。うまうま」


「さっそく、スキルツリーを脱線しちまったな」


「大丈夫大丈夫。これから巻き返すしー。それより、茶化すならあげないよー」

 

「悪かったよ。オレにも一口くれ」


「いいよー」


 オレは倒したスライムの素材を渡し、シャーベットを作ってもらった。


「オレのは、いちご味だな」


「うわ、うまそ。あたしもそれ作ろう」


 モモコは赤いスライムにターゲットを絞って、倒していく。


 スライムによって、オレンジ味やブドウ味と、味が変わるようだ。


 さらにモンスターを倒しつつ、人がいそうな場所を探すことに。



「クニミツ」


「今度はなんだ、モモコ? 牛丼でも食いたくなったか?」


「違う。これ」


 モモコが地面を指差す。


「アイテムだな」


 武器が手に入った。ロングソードである。


「少しだけ、今の装備より強いな」


 女神からもらった端末で、鑑定を行う。


 端末によると、職業に応じた装備がドロップするという。なるほど、ムダがない。


「手持ちの剣が弱いから、ちょうどよかった」


 さっそく拾った剣を、傘から変化した剣と交換する。さらば。


「なんの未練もないんだ」


「ハック・アンド・スラッシュなんて、そんなもんだろ」


 オレは一応、洋ゲーの知識が多少ある。あっちのRPGは、アイテムを手に入れては少しずつ強くなっていくもんだ。


「私は、指輪を見つけた。魔力アップだって。いる?」


「それは、お前が付けておけよ。必要だろ?」


「うん。そうする。どう?」


 モモコが、指を見せてくる。


「厳ついデザインだが、似合ってるな」


「ふふーん」


 うれしそうだな。

 

 装備品は選んだ職業だけではなく、装着者の性格や美意識も反映されるようだ。


 オレの場合は無骨なデザインで、モモコの場合はややアングラ気味なモノが落ちるらしい。


「ポイントは、まだ余ってるよな?」


「うん。それに、スキルポイントだけじゃなくて、フレーバーもあるね。魔法のエフェクトを変えられたり、スキルの名前も勝手に決められるみたい」


「いざというとき用に、取っておくか。たとえば、あんな感じのハプニング用にな!」


 続いての敵は、ゴブリンの群れである。数は一七匹か。


「多いな!」


「あの村に向かってるよ!」


 モモコが、集落のような場所を見つける。


 村からは、煙が上がっていた。


「助けようぜ。ついでに泊めてもらおう」


「うん!」

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