第7話:視線の罠

 「最近、このエリアで自殺未遂が続いているんですよ」


 近所の喫茶店で声をかけてきたのは、若い女性だった。

 見知らぬ相手に話しかけられることは珍しい。

 だが、湊にはどこか“見覚え”がある気がした。


 「不思議なんです。みんな言うんですよ。

  飛び降りようとしたとき、窓辺に立つ男と目が合ったって」


 湊は、無言でコーヒーを見つめた。

 女性は言葉を続けた。


 「その顔を見て、“死にたくない”と思ったって。

  なのに、そのあとまた衝動に襲われて……って」


 「……それが俺に、関係あると?」


 「ありますよ。だって——その男って、あなたの顔にそっくりなんですって。」


 ゾッとするような沈黙が、テーブルを包んだ。

気がつくと目の前に居たはずの女性の姿は消えていた。


 店を出たあと、湊はビルのガラスに映る自分の顔を見た。

 目元に、かすかな違和感。

 ——微笑んでいる?


 そんなはずはない。

 だが、鏡の中の自分だけが微笑んでいるように見える。


 部屋に戻り、風呂場の鏡を見た。

 今度は、明確だった。

 自分の顔ではない。

 誰かの、女の顔。

 黒髪で、透き通るような肌。

 アオ——だった。


 湊は叫び声をあげて鏡を叩き割った。

 破片に映った自分の顔は、もう笑っていなかった。


 だが、耳の奥で声がした。


 「見られるって、心地いいでしょう?」

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