第2話 夢見た少女たち
かみなりもおばちゃんもぽかんと口を開ける。
「あのっ、神野高校って、東京なんじゃ…」
そう、かみなりが受験し、そして落ちたあの神野高校は「東京」にある。その東京はここ、かみなりの地元からは遠く離れた場所で、街の様子もこことは正反対だ。
そんな、神野高校の場所を、今、彼女は聞いている。
ただ、私達をからかっているだけなんじゃないか。とかみなりは考えたが……
彼女の瞳は怖いほどまっすぐで、とてもじゃないが嘘をついているようには見えない。
そんな彼女は首を可愛く傾げ、目を見開く。
「えっ…?だってここ東京でしょ?」
かみなりとおばちゃんは驚きを通り越して、無になる。
ここまでアホな子が存在しているとは……これはもう、天然記念物ということで良いのではないか?
かみなりはそう心のなかで叫び、彼女に話しかけた。
「あのっ…どこの誰だかは存じませんが、ここは東京では無いですよ。東京はここの電車から何時間も乗って行かないとつかな…」
「えぇ!」
少女はこの世の終わりのような顔をしながら、大げさに驚く。彼女は全身の力が抜けたかのように膝から崩れ落ち、倒れる。
「だ、だいじょうぶですか!」
「とりあえず、ベンチに座らせるぞ」
「だいじょうぶかい?」
おばちゃんは少女に水を渡し、心配する。
「あぁ…全然だいじょうぶです。ちょっとびっくりしすぎて…
ぁあ…自己紹介してなかった。私、晴れ晴れ ハレルと申します。十五歳です。よろしくお願いします」
ハレルと名乗った少女は、太陽の様な笑顔で自己紹介した。 そんな、ハレルの元気さに動揺しながらも、かみなりは質問をする。
「は、ハレルさんですね…よろしくお願いします。
それにしても、ハレルさん、ここらへんではあまり見ない顔ですね。家はどこらへんなんですか?ここの隣町とか……」
「私の家は東京にあります!」
「えぇ…」
かみなりは口元に手を当て、驚く。いやっ、もう呆れていた。
「じゃぁ、電車か新幹線で来たんですか…?」
「違うの…なんか、神野高校に行こうとして、お姉ちゃんが描いてくれた地図をみながら歩いてたら、いつの間にかここに来てたの」
「ど、どうゆこと…?」
東京からここまで、電車を使っても相当時間がかかるのにもかかわらず、彼女は歩いてここまで来た。
明らかにおかしい。化け物級の身体能力を持っていなければ、こんなすごい事はできない。
もしかして…神の子?絶対そうだ。だって、神の子以外、神野高校に自ら行こうなんて考えないし、この時期に行くとすれば合格した神の子達だ。
しかも、私と同い年。もしかしたら、この子は私と違って「合格」した子なのかもしれない。
いいな…私も合格したかったな。
「それでなんだけどさ、お前さん、何で神野高校なんぞに行こうとしてたんだ?」
おばちゃんが首を傾げ、堂々と質問をぶつける。ハレルは手をパチンと叩き、元気の良い笑顔を見せた。
「私を神野高校に入れてくれって頼みに行こうとしさてたんですよ!
わたし、今年の受験で落っこちてしまったので」
予想が外れたかみなりは驚いた様に目を見開いた。
そんな…この子も神野高校に落ちた。って事はこの人……私と同じく神の子ってこと?
もし、そうなら、色々聞いてみたい。私は力が弱いけど、神の子事とか神の事についてなら、詳しいし、オタク並みに大好きだ。
学校の人数少なくて、神の子の人数も少なかったから。今ぐらいしか、聞くチャンスは無いかも。
「ってことは、あなたも神の子なんですか?
実は私もなんですよ!私は力が弱いですけど、雷系なんです。あなたは何系なんですか?炎?水?それとも風ですか!
いやっ…太陽系もありえますね。
普段のトレーニングはどんな感じですか?力のせいで生活に負担がかかったり…するんですか?
それにそれに…」
「ごめんなさい」
早口に喋るかみなりの口を、彼女は一言で止めた。ハレルは綺麗な目を一層に暗くし、その目を泳がせる。
かみなりはやってしまった。
何気なく言った一言一言が、時には刃物になるのだと…。さんざん言われてきたかみなりが一番分かっていたことなのに。
「私…神の子じゃないの」
思わずかみなりは口を押さえる。
余計な事を言ってしまった。あんな事言わなければ良かったと、後悔が頭の中を泳いだ。
ハレルは、うつむきながら、長々とかたりだす。
「私、小さい頃からある神様に憧れててね、今でも尊敬してるし、その人のようになりたいと思ってる…
でも、私は神の子じゃない…
お姉ちゃんは神の子なのに、私が神の子じゃないなんて…おかしいよね…」
一気に重く気まずい雰囲気になったのを感じたかみなりはハレルを元気付けようとむりやり笑顔を作った。
「でも、私も神野高校落ちてますし、全然へっぽこなんですよ…
あはは…私、攻撃に適してる電気系なんですけどね
でも、神の子だって絶対神野高校に行かないといけないってことでも無いですし…
他の高校に行くことも可能ですし…」
「でも、私は絶対諦めないよ!」
ハレルはそう強くそう言った。先ほどまで落ち込んでいたのに、自力で立ち上がってしまうとは…恐るべき憧れの力…
「何度落とされようとも、神の子じゃなくて人間だとしても…私は絶対神野高校に入学して
立派な…戦う神様になるんだ!」
かみなりもおばちゃんも彼女の発言に圧倒され、唖然とする。
神の子でも無く、力も使えない、まだ未熟で、ただただ神に憧れる少女のはず無のに、どうしてこんなにも輝いて見えるのだろう。かみなりは自分の夢を少しだけ諦めかけていた事を何だか情けなく思った。
そんな彼女に圧倒されたおばちゃんは、いきなり話題を変えた。
「それでだけどさ…ハレルちゃん。これからどぉするの?」
ハレルはとぼけたようにキョトンとする。
「だって、お前さんの家、東京なんだろう?
もう暗いし、歩いて帰るのは当然、無理だ。今から電車に乗っても、東京に着くころには、もう真夜中。
それに…あんた、金持ってねぇだろう。顔で分かっちまうよ」
ハレルはぎくりとしたようにポケットをあさる。そして…顔を真っ青にして手を震わせる。
「無い、無い、無い…!私、ちゃんと持ってきたのに!
だって、だって家出たときにはちゃんと持ってたはず。
コンビニでお菓子買った…あれっ…」
ハレルは再び、ポケットをあさる。そして、骸骨の様にげっそりとした顔でこうつぶやいた。
「お菓子も…無い」
「どっかに落としたか…盗まれたな」
おばちゃんは哀れむような目で、ハレルを見る。
「可愛そうに…こんなんじゃ家に帰れないな〜
せめて、同い年で、同性で、ここから家の近い、人がいればな…
悲劇のヒロイン、ハレルちゃんを救うことができるんだけどな」
おばちゃんはハレルからかみなりへと目線をずらし、かみなりを見つめる。
かみなりは「まさか…」と考えたが…そのまさかだった。
「そうだ!かみなりちゃんが家に泊めてあげればいい話だ!
なんだなんだ簡単だったじゃないか…あはは」
かみなりは驚きの顔でおばちゃんを見つめた。初対面の人を家に止めるだなんて。誰もが断りたい案件だろ。
しかし、今彼女が困っているのは確か。困っている人を助けないのは、どうも気が引ける。
それに、悪い子には見えないし、彼女の事も色々知りたい。
神に近づくチャンスを逃してはいけないしな。
って…私、まだ諦めてないんじゃん。
「改めまして、私、光元かみなりです。ハレルさんさえよければ、私の家に来てください
外で寝るのは危険ですし、寒いですからね」
親切にそう言うと、ハレルは口を押さえ、感謝が溢れるような笑みでお礼を言った。
その後かみなり達はおばちゃんに見送られ、かみなりの家へと向かった。
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