第3話


席に着くと、お父様が食べ始めたのを見た後で、私も黙々と食べ始めた。

こんな雰囲気の中、いつまでもここにいたくない。


「ミルフィー」


唐突に話しかけられたから、少し驚いた。

お父様から話しかけるなんて……


「何ですか?」


それだけで嬉しく思ってしまう。

お父様は基本私を無視しているから。


「謹慎が解けたのだから、外で気分転換でもしてきたらどうだ?」


一応は私を気遣う言葉。

でも、こっちを見ようとせず、告げられた。


一気に気分が下がっていくのを感じる。


「……そうさせてもらいます」


せっかくだから、そうさせてもらおうかしら。

そう思ったから、軽く頷いた。


「何か買うものもあるだろう。小切手を渡しておく」


それだけ言うと、自分の書斎にでも行くのか、立ち上がって出ていかれた。

テーブルには小切手が置かれている。


「食べ終わったら、すぐ出ていかれてしまうのね」


娘が残ってまだ食べているのに、お父様はすぐに出ていかれてしまう。

それが寂しいと思ってしまうなんて……


「期待なんてもうしないわ」


こんな気分になるくらいなら、期待なんてしたくない。

無駄に期待して落ちたくないのよ。


私も食べ終わると、立ち上がった。

テーブルに置かれている小切手を取りに行くと、それは1000億ゴールドに相当する量だった。

とんでもない額だわ。

お父様はどれだけ私が無駄遣いすると思っているのかしら。


「当たり前だけど、印象は良くないわよね」


泥棒扱いされたことも、よくあったもの。

その時のことを思い出して、苦々しい気分になった。


早く外に出ましょう。

こんなことを思い出してるだけで、時間がもったいないわ。


一旦私の部屋に行き、外に着ていくドレスを選んだ。

ドレスももう少し地味なものを買いましょう。

どれも派手すぎるわ。

ドレス以外は何も付けず、準備が出来ると家を出た。


謹慎中だったんだから、部屋にずっと籠もってたんでしょうけど、久しぶりって感じはしないわ。

まぁ、当然ね。

斬首される前も外に普通に出ていたもの。


「あの人、アイルデア公女様よね?」


「うわ、ほんと。目を合わさないようにしなければね」


「アイルデア公女様だ……」


「あの性格は嫌だけど、容姿は絶世の美女だよなぁ」


コソコソ聞こえてくる声。

きっと悪口だわ。

もうすでに印象が悪いのね、私は……


はぁとため息をついた。

結局、私の運命は変わらないのかしら……

弱気になったけれど、すぐに思い直した。


いいえ、変えてみせるわ。

もう酷いことはしないと誓ったもの。

これから変えていけばいいのよ。

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