21話

 手に持っていた鉄扇を一切使わずに素手で山賊を倒して行った。騎士達はそれを信じられないという表情でそれを見ていた。ドレス姿でヒールも履いている状態で十数人いた山賊を騎士達一人にも触れさせずに倒してみせた。そして何食わぬ顔でタルザナは鉄扇を口元に持ち騎士達に一言、


「……さぁ、行きましょう」


 と告げ何食わぬ顔で馬車の中に入って行った。騎士達は一瞬静まった後に大きな歓声をあげている。それをタルザナは「お元気ですこと」とだけ言いカイヤの向かえの席に戻った。


「……随分、早かったな」


「えぇ、なにぶん手応えがなかったもので」


「ほう、俺は相当なお転婆令嬢を婚約者にしたようだな」


「まぁ、お転婆令嬢ではお嫌でしたかしら?」


 タルザナは、笑みを崩さずにカイヤを見る。すると馬車が動き出した。それと同時にカイヤは消え入る声で「心配しただろ」と泣き出しそうな表情をしていたのだ。それを見たタルザナは「ロゼとしてのわたくしを知っているのでは?」と冷静にカイヤに問う。


「そうだが…!怖いものは怖いだろう!!初めて出来た大切な人が…し、死んだらと思うと……」


 顔面蒼白の表情で息も絶え絶えの様子で話すカイヤ。それを見たタルザナはカイヤに近づき隣に座り、背中を擦りながら「大丈夫、私はここにいるから」と言葉を掛けながらカイヤの呼吸を落ち着かせるように言葉を掛け続けた。そしてカイヤが落ち着きを取り戻すとタルザナは何事もなかったかのように向かいの席へ戻った。


「すまん、取り乱した」


「いえ、わたくしも勝手が過ぎました申し訳ありません」


「いや、気にするな。お前は俺の部下を助けてくれた。感謝する」


「とんでもございません」


 と言いタルザナは考えていた。カイヤのトラウマのトリガーを。今回のように再びカイヤがあの状態になったらと思うとタルザナがカイヤのトラウマをフォローできておいた方が色々と好都合なのだ。

(……まず、人に裏切られることは前提として。大切な人を失うことを恐れているように見えた。それに、カイヤのご両親は何で亡くなったんだっけ…?それで大体のトリガー絞られるんだけどなぁ)

 とタルザナはほぼ9割は答えを出していた。だが、残りの1割は確信と納得だ。それがない時点で今考えたそれらはただの仮説になる。それだけで決めつけるのはあまりに浅慮で早計だろう。タルザナは少しずつカイヤの会話の中でトラウマを探ることに決めたのだった。


「……タルザナ」


「何ですか?」


「君は、どうして自分のことを後回しにするんだ?何故、人を庇う?自分が傷つくかもしれないのに」


「……え?」


 タルザナは予想外の質問に言葉を失う。……人を庇う?自分を後回し?そんなことをしているつもりなどなかった。自分は悪役令嬢を演じていたのだ。だから、人のためになることを極力避けてきた。だのに、何故カイヤがこんなことを聞いてくるのかが分からなかった。

(私は、自己犠牲をする偽善者でも…お人好しの馬鹿じゃない!!私は…悪女なんだから)

 と心の中で叫び何とか冷静になりカイヤに問う。


「カイヤ様、わたくしは庇いもしませんし自己犠牲をする偽善者でもありませんわ。賊の件でしたら、彼らのやり方が気に入らないと考えただけですもの」


「そうか、無意識でやってるのか。やはり前世の影響か」


「何を言っていらっしゃるのやら。前世の記憶は性格となんの影響があるのです?」


「性格は変えられるが、深層心理は前世からの物だと言うことは知っているだろう?」


 カイヤの言葉にタルザナは察した。カイヤが何を言いたいのかを。タルザナの人を庇おうとしたり自己犠牲を惜しまない行動は、深層心理的な物として心に刻まれているのではないかと言いたいのだろう。それに関してはタルザナも心当たりはある。

 タルザナの前世である小鳥の性格は、自己犠牲を惜しまずに人を助けようとするきらいがあった。良く言えば善人、悪く言えば利用されやすい人間だっただろう。優しい者は悪しき者に利用されやすい。世の中はそんな風にできているのだ。それをもっと早く知っていれば良かったのだが、人生はそんなに上手くできていない。


「そうですね。なら、わたくしは無意識に自己犠牲的なことをしていたということであっていますか?」


「あぁ、そうだろうな。君からしたら本当に当たり前のことなんだろう」


「……そうですか、当たり前のこと」


「何か、原因に心当たりでもあるのか?」


 カイヤはそう言い首を傾げた。その心当たりがあったタルザナは、言おうか言うまいか考えを巡らせていた。

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