18話

 二人は、無表情で部屋を出た。公爵令嬢と国王としての立場があるためである。すると、父、母、弟がこちらへ駆け寄って来た。ずっと心配だったのだろう。三人や使用人達には部屋の近くには居ないでくれと話していたのだ。全員が反対していたが、堂々とした様子でカイヤが「俺が嫌がる嫁入り前の娘に触れると思うか?それに、彼女は俺の婚約者になる女だ。問題はないだろう?」と悪い表情で全員を無理やり納得させていたのである。心配しても無理はないだろう。タルザナは一歩前に出て凛とした面持ちで全員に告げる。


「……皆、私は彼…カイヤ陛下の元に嫁ぐことにしましたわ」


 と。三人と使用人は心底驚いた表情をしていた。それはそうだろう、タルザナは皇太子妃になることを拒んでいた。そんな人間が国王であるカイヤの妻として嫁ぐという選択が自分の意思で決めたことだとは思えないのは無理もないと察するにあまりある。


「いいのか?お前はオハイキス皇太子…失礼、王子が婚約者になった時に自分は王妃になる素質はないと言っていたじゃないか」


「……確かに、そうですね。あの時はそう言った方がいいと思いましたし、事実ですので。それに、私は王子のことを最初から信じておりませんでした。逆にカイヤ陛下は、私の全てが好きだと…人を信用しない私を受け入れようとしてくださいました。…その言葉に嘘偽りはありませんでした。……なので、私はもう一度人を信じることにしたのです」


「「「……/姉さん/タルザナ/…!」」」


 タルザナの言葉にカイヤが目を見開き驚いた。タルザナが自分を信じると言ってくれたのもあるが、それと同時にタルザナの体が少し震えており、いつもより冷たい口調はその震えを隠すためだと気づいたためであろう。……周りに気づかないように平静を装い皆に優雅に微笑みを浮かべながら話をしていたが、まだ…震えていた。――タルザナ自身がその言葉を発するのにどれほどに恐ろしかったかをカイヤは痛い程に分かっている。それでも「信じる」という言葉を言ってくれた強く、勇ましい女性…タルザナに自分が返す言葉など決まっているとばかりに自分より前に出ていたタルザナへと向かい家族と話しているタルザナの隣へと向かいカイヤは真剣な面持ちで口を開く。


「タルザナ嬢のご両親方、そして弟君。僕は彼女をこの命をかけて幸せにすることを誓います。決して彼女の信頼を裏切ることは致しません。そして、彼女と同じように僕はタルザナ嬢に最大限の信頼を寄せています。彼女がどんな姿、性格になったとしても永遠に彼女の幸せを願い…彼女を慈しむことをカイヤ・ヌーマイトの名にかけてお誓い致します。ですので、どうか…彼女、タルザナ嬢と婚約を交わさせて頂いてもよろしいですか?」


 カイヤはそう言い、三人に向けて最大の敬意を払うボウ・アンド・スクレープを行った。タルザナを含めた四人は驚いのあまり絶句した。ボウ・アンド・スクレープは国王が公爵にしていいものではないのだから。隣に居たタルザナはそれを止めようとして動きが止まる。カイヤと同じように気づいたのだ。カイヤも身体が震えていることに――

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