第2話 入り込んだら戻れない

木々の密度が異様に濃くなり、空の明かりが遮られていく。

 山道を徒歩で進んでいくうちに、誰もが言葉少なになっていった。


「おい…空気、変わってきたな」

 健吾がふと立ち止まる。


 耳を澄ませば、さっきまで鳴いていた蝉の声が、いつの間にか途絶えていた。

 代わりに、遠くで**カラン、カラン…**という金属の音のようなものが断続的に響いている。


「何か…いる?」

 茜が怯えた声で呟いた。


「気のせいだって。風の音か、鹿とかだろ」

 涼が笑ってみせるが、少し引きつった表情だった。


 道なき道をしばらく進んだ先、視界がふいに開けた。

 そこには、黒ずんだ鉱山の入口がぽっかりと口を開けていた。崩れた木製の柵、地面には錆びたトロッコのレール。

 昭和の遺構がそのまま時間に取り残されていた。


「ここだな…鉱山跡」

 祐介がポツリと呟く。


 その瞬間、どこかでカァンという音が鳴った。

 誰かが金属棒を岩に打ち付けたような、人工的な響き。


「誰か、いる?」

 茜が後ずさる。


 ――その時、山の奥からゆっくりと現れたのは、

 白装束に身を包み、顔を布で覆った者たちだった。

 無言で、一定の間隔を空けて並び立つその姿は、まるで“出迎え”のようだった。


「……おい、マジでやばくないかこれ」

 健吾が青ざめる。


 しかし、涼がなぜか一歩前に出る。


「いや、これ地元の人の宗教儀式とかだろ。珍しいもん見れたな。すげぇじゃん」

 その言葉に、茜が怒鳴る。


「何がすげぇのよ!こんなの、絶対やばいに決まってるじゃない!」


 それでも涼は、白装束の一人にカメラを向けようとした。

 次の瞬間――


 ズバッ


 何かが飛んだ。

 そして涼の腕からカメラがすっ飛び、血が噴き出した。


「がっ……!?」

 涼が悲鳴を上げる。


 白装束の一人が、鉈のような刃物を携え、無言のままじりじりと近づいてきた。


「逃げろ!!」

 雄太が叫び、全員が反射的に散開する。


 だが、鉱山の奥へ逃げた者たちは知らなかった。

 そこが“戻れぬ迷路”となっていることを――

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