第6話 答えは、ない
「コウキよ。少し、話しが出来ないだろうか」
「良いですよ。あっ、先にワイバーンの死体はしまっておきましょうか」
「っ……」
ワイバーンの死体を亜空間にしまっていく嵩希の姿を見て、当然ながら何も言えることがないマルカス。
依頼を受けていたのはマルカスたちだが、その対象を嵩希が討伐してはいけないというルールはない。
勿論、そういった行為を意図的に行い、粘着先回りストーカーの様な行為を繰り返していれば、ギルドからマークされて何かしらの処分が下される。
しかし、今回は偶々であり、ひとまず証言証拠だけであれば、嵩希がマルカスたちが依頼を受けるところを見ていない為、先回りストーカー行為をされたと断言することは出来ない。
「そうだ、腹減ってませんか」
そう言うと、嵩希はニンニクやオリーブオイル、キノコや黒こしょうを取り出し、アヒージョを作り始めた。
この世界では手に入らない、まだ生み出されていない物などもあるが……そこは嵩希が手に入れたチートスキル、ネットスーパーのお陰でなんでも揃えられる。
「それで、ドムブさんは俺とどういった事をお話したいんですか?」
この世界で手に入れたキノコを適当にカットしながら、早速本題へと入る。
「うむ……当たり前の事ではあるが、お主は随分と強いなと思ってな」
身長は低くとも筋肉的な意味で丸っと太いドワーフであるドムブは、腕力には自身があった。
だが、嵩希という青年が複数体のワイバーンを一人で討伐したという事実から、その点で上回られていると思えてしまう。
「はは、ありがとうございます。まぁ……多少なりとも旅をしてきましたけど、俺の場合は運が良かっただけなんで」
「運が良かった、か」
「えぇ、そうです」
にんにくの皮をむき、包丁で押し潰した後、オリーブオイルなどを弱火にかける。
「どんな、とは言えませんけど、俺は手に入れたスキルが物凄く優れているので」
「運も実力の内、とは言うがのぅ」
「冒険者になって……ほぼ五年。それなりに旅を続けたという点に関しては、己の勇気があっての道のり……と言えるかもしれませんね」
特別な一杯を、私服な一杯を求めて嵩希は歩き、走り、登るだけではなく、がっつり戦っていた。
戦闘に関する超有能なスキルがあれど、身体能力の問題で全ての対峙してきた敵との戦いが楽勝だった訳ではない。
「……歳は、二十になったかまだ届いてないぐらいかの」
「えぇ。そんなところです」
「その割には、随分と誇らぬのだな」
少々甘いと感じるコーヒーの味に……横眼から移る景色。
にんにくなどに加えてキノコも加わり、漂う香りに食欲を掻き立てられる。
そんな安らぎ……尚且つ食欲がそそられる状況であっても、嵩希の落ち着いた態度が、ある種の冷たさを感じさせる。
「そうですね………………誇らぬことが、嫌味と思われることがあるのは解っています。ただ、自分の性格的にも、むやみやたらに自慢はしたくないと言いますか……それに、やりたい事をやってきた末、付いてきた結果なので」
「「「「っ!!!」」」」
(やはり、か……どうやら、儂の予想は当たっていたようじゃのう)
ドムブから見て、嵩希は欲のない人間には見えない。
ただ、俗世的な欲を持っているタイプには思えなかった。
ドムブの経験上、俗世的な欲は持っていない……しかし、別の欲……もしくは確固たる目的を持つ者が、英雄と呼ばれる存在に近づく。
嵩希は、そのタイプに当てはまる人間であった。
「っし、そろそろかな…………うん、良いね」
アヒージョが出来上がったのを確認し、嵩希は亜空間から取り出した更に盛りつけていき、スプーンを乗せてドムブたちに渡していく。
「おかわりもあるんで」
「では、いただこうかのう」
ドムブは遠慮なく口にし、マルカスたちも渋々といった表情で口にするも……数秒後には、その味に驚きを隠せない。
(野営の料理で……ここまでの味を)
亜空間を、アイテムボックスを有する時点でもしやとは思っていたものの、実際に出来上がったアヒージョを食べ、そのクオリティの高さに思わず固まる四人。
「うむ、うむ……これはあれじゃのう。酒が欲しくなる味じゃ」
「はは! そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、さすがにお酒は街に着いてからにしましょう」
酒も……あるにはある。
ただ、街の近くではなく、寧ろ全然離れている。
チートスキルのお陰で激強冒険者になりはしたものの、この五年間でイレギュラー……異常事態の恐ろしさは身に染みて体験している。
そのため、さすがに提供は出来なかった。
「それもそうじゃのう……そういえば、お主が昨日マルカスと口論? になった冒険者じゃったな」
「っ!!!」
アヒージョの美味さに衝撃を受けてるところに、別の衝撃を食らわされてむせるマルカス。
「そんな事もありましたね。あの後少し考えましたけど、俺としては答えが出ない問題かなって結論に至りました」
「答えはないか」
「はい。話し合うことは色々とあるかもしれませんけど、冒険者らしい冒険者たちの考えは深く根付いたものであり、間違ってるとは言えない。でも、マルカス君が目指したい冒険者像? というのも、それはそれで間違ってない。一般市民からすれば、乱暴な冒険者より多少の礼儀があって、酔っぱらって道端で喧嘩しないような冒険者の方が信用出来ますからね」
「………………」
ナバーム、という家名を持つ通り、マルカスは貴族出身の冒険者。
平民出身の者たちと比べて高い教育を受けてきた。
だからこそ……嵩希が、どれだけ理知的な対応を取っているのか解る。
それと同時に、先日の自分が……これまでの自分が、どれだけ自分本位な考えを持っていたのか思い知らされた。
「その者同士で色々とぶつかることはあるとは思います。でも、どちらも悪いとは言えないので…………せめて、その差に関して相手に言いがかりをつけない、喧嘩を売らない。それぐらいが出来ることじゃないですかね」
嵩希はマルカスに対して嫌悪感などはないものの、最後の最後に無意識にぐさりと刺すのだった。
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