第23話 新生「綾香」の衝撃、レーティングサイトの頂点
慧のひらめき。
佐伯の技術力。
そして、白鳥の柔軟な発想と、彼女が共有してくれた実験データ。
それらが化学反応を起こし、ついに綾香の新たなエンジンが完成した。
TransformerとCNNを、慧が考案した「将棋特有の位置特徴を埋め込む」という独自の接続方式で融合させた、新生「綾香」プロトタイプ。
内部テストの結果は、衝撃的だった。
「…なんだ、これ」
佐伯が、テスト対局の棋譜を再生しながら、呆然と呟いた。
モニターに映し出された綾香の指し手は、以前のバージョンとは明らかに異質だった。
序盤の駒組みは、より自然で、大局観に優れている。
中盤の折衝では、相手の狙いを的確に見抜き、人間が「流れが良い」と感じるような、淀みのない指し回しを見せる。
そして、最大の課題だった終盤。
以前のような脆さは影を潜め、複雑な局面でも粘り強く、時に人間には思いもよらないような受けや、鋭いカウンターを繰り出すようになった。
まるで、盤上の駒たちが、それぞれの位置で「意味」を主張し始めたかのようだ。
慧は、黙ってその棋譜を見つめていた。
胸の奥が、熱く高鳴るのを感じる。
これだ。
これが、自分たちが追い求めていたものの一端だ。
「桐山…これ、マジですごいぞ…」
佐伯の声が、興奮に震えている。
「ああ。だが、まだプロトタイプだ。実際に他の強豪AIと戦わせてみなければ、本当の実力は分からない」
慧は冷静さを保ちながらも、その口調には隠しきれない自信が滲んでいた。
二人は、ある決断を下した。
この新生綾香の実力を、世に問うてみよう、と。
ただし、開発者名は伏せて。
純粋に、その棋譜だけで評価されるために。
彼らが選んだのは、世界中のAI開発者がその実力を競い合う、有名なオンライン将棋AI対局サイトだった。
慧は、綾香のプログラムに一時的なランダムなAI名をつけ、佐伯が用意した匿名のアカウントで、そのサイトに接続した。
「よし、行くぞ」
佐伯が、エンターキーを押す。
その瞬間から、無名のAI「X(エックス)」(仮)の快進撃が始まった。
初日。
並み居る中堅AIを相手に、連戦連勝。
レーティングが一気に跳ね上がる。
二日目。
上位ランカーとの対局が組まれ始める。
それでも、「X」の勢いは止まらない。
時に大胆に、時に緻密に。
その指し手は、観戦していた他のAI開発者たちを驚愕させた。
三日目。
ついにレーティングサイトのトップ10入りを果たす。
サイトのチャットや関連フォーラムは、「謎のAI『X』」の話題で持ちきりになった。
「一体誰が開発したんだ、この『X』ってやつは?」
「指し手が人間離れしてるけど、なんか…魂を感じるというか…」
「短期間でこのレーティングは異常だ。バグじゃないのか?」
「いや、棋譜を見たけど、明らかに強い。新しいアーキテクチャか?」
慧と佐伯は、その反響をリアルタイムで追いながら、固唾を飲んで綾香の戦いを見守っていた。
心臓が、早鐘のように打っている。
これは、自分たちが生み出したAIが、世界にその存在を知らしめる瞬間の記録だった。
そして、参加からわずか一週間。
AI「X」は、ついにレーティングサイトの頂点に立った。
圧倒的な強さで。
その日、サイトのトップページには、無名のAI「X」の名前と、他の追随を許さないレーティングポイントが、誇らしげに表示されていた。
それは、静かな、しかし確実な衝撃だった。
将棋AIの世界に、新たな風が吹き始めたことを告げる、力強い胎動。
慧は、モニターに表示されたその結果を、ただじっと見つめていた。
指先が、微かに震えている。
「やった…」
絞り出した声は、掠れていた。
佐伯が、慧の肩を強く叩いた。
「やったな、桐山! やってくれたな、綾香!」
その顔は、満面の笑みで輝いていた。
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