第17話 影と影――地獄の忍法対決

 荒川の渡し場。

 月光に照らされた木橋の上で、犬江親兵衛は静かに身構えていた。


 目の前に現れたのは、黒装束の忍――甲賀の拷問忍者・阿多夜あたや


 「ふふ、犬士か……いい躰だ。折るには惜しいが、芸にはなる」


 「――お前を通すわけにはいかない。仲間の行く道を、俺が切り拓く」


 言葉とともに、阿多夜が仕掛けたのは、闇に紛れた毒針乱舞どくしんらんぶ


 親兵衛はそれを紙一重でかわし、手裏剣を放つ。だが――


 「遅いッ!」


 闇の奥から現れた阿多夜の体術が、親兵衛を捕らえた。



---


 絡みつく技・地獄締め


 「貴様の骨が砕ける音、良い音色だぞ」


 親兵衛の胴体に巻きつく阿多夜の肘と膝、絞め技――

 それは、忍法・地獄蛇骨絡締じごくじゃこつからじめ


 いわば、“忍法コブラツイスト”――肩と腰を極め、身動きを封じる拷問技だった。


 「ぐっ……!」


 肋骨が軋み、意識が遠のく――しかし、そのとき。



---


 義の閃光


 「……俺は……まだ、終われない!」


 親兵衛の懐で**霊玉「義」**が激しく脈打つ。


 すると、影が逆巻き、彼の姿が分裂した――影分身かげぶんしん


 空蝉のように、絡締められていた体が霧散し、阿多夜の腕が空を裂く。


 「なにッ……!」


 背後に現れた本体が、影より抜き放つ短刀で阿多夜の肋を突く。


 「――義を背に、仲間を殺させはしない!」


 「ぐああああっ……!」


 地に伏した阿多夜を残し、親兵衛は橋を駆け抜ける。



---


 そして影は、光へ


 「コブラツイストだろうと、毒蛇だろうと……俺は、影から支え続ける」


 その足は、仲間の戦う戦場へと向かっていた。

 己の義を信じて。



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