第2話 隣に座る孤高の清楚系な美少女

 次の日。


 正章は、いつも通りに登校した。休みたい気持ちだった。しかしズルい休みは気が引けた。身体にムチを打った。学校に到着する。憂鬱になった。教室に入る。少なからず吐きそうになる。


「お! 昨日に別れた本人の登場だぜ」


 木下が教室に行き渡る声を発する。木下の声は良く通る。


 正章の耳を強く刺激する。声色に苛立ちを覚える。昨日のノインの内容を思い出す。動画やメッセージを思い出してしまう。


「昨日、別れたらしいよ」


「可愛い彼女だったのにね」


「でもしょうがないよ」


「木下君が奪ったからね」


「木下も人が悪いよな」


 クラスメイト達は正章を揶揄する。正章には揶揄した口調に聞こえる。口々に話すクラスメイト達の顔がニヤけている。半分バカにしている。その節がある。


 誰も木下を責めない。軽蔑しない。悪く言わない。


 木下は陽キャの生徒だ。スクールカーストも高い。男女からの人望も厚い。評価も高い。


 一方、正章は陰キャ。男女からの評価は高くない。クラス内で静かな部類。話した経験のないクラスメイトも多い。


 正章と木下では大きな差がある。立場も違う。勝ち目もない。言い返せない。行動に移せば立場が悪くなる。おそらく潰される。教室内で居場所を失う。


 正章は教室の全体を見渡す。多くのクラスメイトが視野に収まる。全員が木下の味方に見えた。全員が正章の敵に見えた。


 現実的には異なるのかもしれない。


 しかし、正章は思い込んでしまう。クラスメイトは敵であると。周囲に味方など存在しないと。自分はアウェイに身を置いていると。少なからず絶望する。不幸に不幸が重なる。メンタルは堪える。


 1人の女子が席から立ち上がる。読んでいた本を机の上に置く。


 その女子は無言で歩を進める。黒髪のロングヘアを揺らしながら。


 その女子は紺色の大きな瞳で1つの人物を据える。その人物は意外にも正章。


 その女子の一挙手一投足にクラスメイト達の視線が集まる。


 木下の視線も自然と吸い寄せられる。


 その女子は全く気にした様子がない。無言で正章に接近する。


 正章の隣の席に無言で腰を下ろす。許可も取らずに。偶然に開いていたために。


「あなた彼女と別れたの? 」

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