第七話「うそつきの竜」

今宵もまた、青の丘に星が灯りますわ。

満天の星が静かにまたたく夜、子どもたちは毛布にくるまって、セレーナの足元に集まってまいります。

セレーナ・イリア・F・クリスティアは星を見上げ、そっと微笑んで囁きました。


「星を数えると、嘘がバレる――そんなお話を聞いたことはありますか? 今宵は……“うそつきの竜”のお話をいたしましょうか」


* * *


とある山奥に、星を集めると言われた古竜が棲んでおりました。


その竜は、何百年ものあいだ、誰にも見つからず、空を飛ぶこともなく、ただ洞窟の奥に潜んでいたと伝えられております。


けれどある日、一人の少年がその竜を見つけたのです。


少年の名はサミル。村の外れに住む羊飼いで、夜な夜な星を眺めるのが好きな子でございました。


彼は霧の夜に迷い込み、偶然その洞窟へと足を踏み入れてしまったのです。


「……誰だ」


奥から響いた低い声に、サミルは怯えながらも名を名乗りました。


「ぼ、ぼくはサミル。星を探してたんだ」


すると、竜は言いました。


「星なら、ここにある」


暗闇のなか、竜が差し出した爪の先には、小さな光が揺れていました。


「これはね、星のかけら。願いを集めてできたものさ」


サミルは目を輝かせて言いました。


「それって、本当?」


竜はくすりと笑い、言いました。


「さあ、どうかな。わたしはうそつきの竜だからね」


そうして竜は、いくつもの“星のかけら”を見せながら、さまざまな話を語って聞かせました。


ある星は、恋人たちの別れの涙から生まれたもの。

ある星は、落ちた勇者の剣の欠片。

ある星は、空を駆ける船の帆からこぼれ落ちた光。


サミルは毎晩のように通い、竜の話を聞きました。


「その話、本当?」


「うそかもしれないよ。でも、夜の星に訊いてごらん」


ある晩、サミルはふと訊きました。


「竜さんは、どうしてそんなにたくさん嘘をつくの?」


竜は長い沈黙のあと、静かに言いました。


「嘘だけが、わたしをこの場所に繋ぎ止めてくれるのさ。真実は、ひとりぼっちで冷たいから」


その夜、星はひときわ強く輝いておりました。


それから幾日が過ぎ、サミルが洞窟を訪れても、竜の姿は見えなくなっていました。


ただ、竜が座っていた石の上に、一枚の鱗のような光る石と、手紙が残されていたのです。


「さようなら、サミル。君の“信じたい”という気持ちが、わたしの嘘を星に変えてくれたのかもしれない」


その夜、サミルは初めて星を数えました。


ひとつ、ふたつ、みっつ――そして、七つめの星がやさしく瞬いたとき、彼は笑いました。


「竜さんは、ほんとうにうそつきだったんだね」


でもその笑みは、どこまでもやさしく、まるで星のように澄んでおりました。


* * *


セレーナは調律器の音を止め、静かに語りかけました。


「嘘も時には、誰かを守る魔法になることがございますの。でも――願わくば、星のように、やさしい嘘であってほしいものですわね」


エリオットは腕を組んだまま、「ふーん……それで、その星のかけら、ほんとにあったと思う?」と呟きました。


ミレーヌは笑って、「うそでも、わたしは信じたいな」と言いました。


クレアは記録帳に「うそつきの竜、真実の星」と書き込んでおりました。


窓の外では、いくつもの星がまたたきながら、今夜もどこかで語られた“うそ”を、そっと抱いていたのかもしれませんわ――


■ 登場人物


【語りを聞いていた人物】

・セレーナ・イリア・F・クリスティア:語り部。星を見上げながら、嘘のやさしさを語る吟遊詩人。

・エリオット:うそとほんとうの間を探る、少し斜に構えた少年。

・ミレーヌ:物語に素直に心を寄せ、信じたいと願う少女。

・クレア:うその中にある真実を記録しようとする観察者。

・他、孤児院の子どもたち数名(描写省略)


【物語内の登場人物】

・サミル:星を愛する少年。うそつきの竜の話に耳を傾け続けた。

・うそつきの竜:さまざまな“星のかけら”を持つ孤独な存在。嘘を語りながら少年と心を通わせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る