第3話
休み時間女子たちが輪を作って固まって、きゃあきゃあと騒いでいた。
「やばいやばい、カッコいい」
どうやら何か雑誌を見ているようだ。
「久留米様はやっぱり格好いいし、大好き」
「だよねー」
タマキはそれを遠くから観察して、いったい、女子たちが騒ぐほどの久留米様という人はどんなだろうと思った。格好いいというなら、どれほどか見たい気がした。
可愛い僕を放っておいて、騒ぐくらいだ。いったいどんな奴だ。
声をかけて見せてもらっても良いが、タマキが彼の人気に嫉妬していると知られるのがたまらなく嫌だ。そこまでうぬぼれていると思われると凄く自分が痛々しくてたまらない。どうにかしてこっそり見なくては。
そして、タマキは、密かに雑誌を盗み見る機会をうかがっていた。
放課後のことだ。女子の伊藤鈴香の机の中に例の雑誌が入れられているのをみた。どうやら伊藤鈴香はもう帰宅して、机は無防備にさらされていた。
タマキは、教室に人がいなくなると、そっと鈴香の机に近づき、その棚の中を漁った。雑誌を取って、ぱらぱらとめくる。アイドルの月刊誌である。どこに久留米様は写っているのだろう。
雑誌の真ん中あたりで、めくる手を止めた。
「久留米京太郎」
その文字と一緒に飾られた一人の男に、タマキはぎゅっと心臓をわしづかみにされた。
それは、なんともこの世の者とは思えない美しいばかりの余りに綺麗な男だった。綺麗なばかりではなく、男らしさが匂いたつ。
伏し目になった、まつ毛の長い色気のある久留米京太郎がタバコをくわえている写真。横にはスナップ写真で、子犬のように笑っている可愛らしい久留米京太郎。そして、がんと睨むようにこちらを横目に見ている写真。つんとして鋭い目付きで色っぽい。
ぞくぞくっと背中に電気が走り、タマキは胸がどきどきした。
好きだ。
僕、彼が好きになった。
丸山健なんかよりも、ずっとずっと、僕の心は捕らえられた。
目の前が急に明るくなり、わくわくと楽しさに胸が躍り、タマキは真綿に包まれるような心地の良い幸福を感じた。
美しさは罪である。こんなに心が引寄せられるもの。
タマキはそっと雑誌を机の中に戻し、帰りに本屋に寄って、同じ本を買った。
家に帰り、彼は自分の部屋で飽きることなく久留米京太郎を見つめていた。そして、恋の甘いため息を吐いて、肩から力を抜いて、腕を投げ出すのだった。
「ありがとう」
僕が生きている世界に生れ落ちてくれて。
久留米京太郎はLANNというアイドルグループのリーダーだ。齢は二十歳。十三歳のタマキより七つも違うじゃないか。
彼の為なら自分を犠牲にしてでも、何でもしてあげたい。
こんな献身的な気持ちになったのは初めてだ。今までは愛を与えられるばかりで、自分からそれをしたことがあったろうか。
愛されることに慣れたタマキは、いまさらながらに愛すことを知った。
ああ、もっともっと可愛くなりたい。
そして、久留米京太郎に好かれたい。
彼につりあうほど可愛くなりたい。女の子を超えたい。
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