第9話 祝人とフウリ

旅のサポートをしてくれるというアインのことを知っておくのは重要な気がする。


そんな俺からの疑問にアインは答える。


[アインはマスターの自由意志を妨げない範囲で、知識と言語の翻訳、思考のサポート、記憶の同期、情報提供・解析、記憶の整理などを行えます]


「……ほとんど何でも屋って感じだな」


[ただし、現在の状態では機能の一部しか使用できません。メモリから許可されている情報アクセスが限定的であるため、知識の精度や言語翻訳もまだ完璧とは言えません]


「限定的…」


――答えが分かってから旅するなんてつまらないじゃないか


俺はメモリに言われた言葉を思い出す。

だとも言っていたな。


「じゃあ、全部任せきりってわけにはいかないってことか」


[はい。マスターが観測し、体験し、思考することがこの世界における“情報蓄積”となり、アインの機能・精度も向上していきます]


「結局、自分の足で歩くしかないってことね」


もちろん旅を他人任せにするつもりは毛頭ない。

だってそんなのつまらないからな。


とはいえ、これからどうしたものか…。


そんなことを考えていると


[なお、マスターの肉体がこの世界で歩んできた記憶との同期がまもなく完了します。]


そうアインが言うと同時に、この島で生活してきたこれまでの記憶が自分の中によみがえって来た。


「これが、この体の記憶」


俺はこの世界でフウリという名前らしい。もうすぐ15歳になり、それと同時に成人の儀式を受ける。

この島の名前は”カイシャヤ”という。

カイシャヤ島はそれなりに大きく、地形的には昔行ったことのある沖縄の石垣島に似ている。

住んでいるのは山の麓にある小さな村で、両親と3人暮らしだ。父親は猟師で、俺は色々と山の手ほどきを受けている。

弓の腕は父さんも認める程だが狩は得意ではなく、今日も別々に山に入ってサボっている。


「驚くほどこの世界の自分に違和感がないな」


[それはマスターが――――――――。]


「え、なんて?」


途中アインの言葉がよくわからない音に変換されて聞き取れなかった。


[申し訳ありません。権限不足のためお答えできないようです。]


「権限…ってメモリの制限か」


俺の体に起きてることなんだから、詳しく知る権利くらいありそうなもんだけど。


[記憶の同期による身体への悪影響はありませんのでご安心ください。]


「それなら、まぁいいか」


いちいち気にしてたらキリがないしな。

だんだん身に起こる不思議現象に慣れてきた自分がいて、少し複雑な気分だ。


「まぁ、順応は力なりだ」


そう呟いたフウリは、気を取り直して目の前に広がる風景を見渡した。


眼下に広がるのは、うねるように続く原始の森。

ガジュマルやアコウの巨木が混じり合い、濃い緑の重なりがどこまでも続いている。


なだらかな山並みの中に少し開けた場所があり、炊事の煙が上がっている。

フウリの住む村だ。

赤土に沿って芋や豆が育っている。


遠くには、珊瑚礁に守られた内海うちうみが光を受けてきらきらと揺れていた。


白い浜辺に沿って小さな港の海の村がある。

丸木舟が波に揺れ、高床の家がいくつか傾斜に並んでいる。

人々が行き交い活気がありそうだ。


空にはトンビ。

森の奥から、鳥の声。

ときおり、太鼓の音が風に混じる。


山、森、海。

人の暮らしが、そのすべてに抱かれていた。


まるで、世界が静かに息をしているようだった。


「すぅ……ふぅ〜…」


フウリは深く呼吸をした。

東京での生活を思い出していたのだ。


力を持つことこそが豊かさだと言わんばかりの社会。

便利を追求して複雑さが増えた。

モノとルールに溢れて、がんじがらめになった世界。


目の前の風景のどこにそれがあるだろう。


気づけばフウリは涙を流していた。


この世界のフウリは知っている。

日々の暮らし、その1日1日が幸せだと。

誰と豊かさを比べることもなく、みんなで幸せなことを知っている。


柔らかな風が髪を揺らす。遠くにかすかに鳥の鳴き声が聞こえる。


「アイン」


[はい、なんでしょう?]


「俺、すでに旅に出てよかったって思ってるよ」


[それはなによりです、マスター]


そう言うアインの声は、ほんの少し嬉しそうだった。



--------------

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


フウリ

「この世界に来て、何かがすでに変わり始めてる気がするんだ。もしその一歩を一緒に見守ってくれるなら…★とかフォロー、してくれると嬉しいな」

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