閑話 桜真里花の初恋~その3~

 勉強会の夜,まどかに電話した。


 正直,まどかの話は要領を得なかった。

 はっきりと伝えられたのは『聡二君のことが好き』ということ。


 GWの明けのあの日,落ち込んで泣いていたときに,彼から一杯のカフェオレとシュークリームをもらったこと。

 案の定,あの日から彼との交流が始まったらしい。

 それから毎週土曜日に,彼の勤める『Cafe Carrot』に通うようになったこと。

 初めは自分の気持ちがよく分からなかったそうだが,だんだんと彼に惹かれていったのだろう。

 彼の目標,あの店のケーキを食べて『彼の力になりたい』と思ったことが始まりだったらしい。

 ちょっと意味が分からないが,確かにあの店のケーキは美味しかった。

 私はチーズケーキしか食べたことはないが,一流のパティシエでも,あの味を作り出すことは難しいというのはよく分かる。

 応援したい,という気持ちが恋心に変わるのは,いまいち良く理解できないが。




 彼を調理実習の班に誘ったのも,その結果の行動だったらしい。

 何でそうなるの,とは言えなかったが。

 確かにあれで,彼の交流関係は広がった。

 君島さんや大川君,そして私とも友達になったし,調理実習明けには随分女子にもてていたようだったし。

 まどかに言わせれば『大誤算』だったと聞いて,笑ってしまった。




 一つ気になったことがある。

『真里花も彼のこと,好きになっちゃってない?』

 と,聞かれたことだ。

 まあ,まどかに指摘されたように,カフェで働く彼の姿は,私の理想の男の子そのものだったし,話してみると,彼の人の良さも分かってきて,『好き』か『嫌い』で言えば,『好き』なんだろう。


 でも,親友の想い人を横取りする気はない。

 私にも矜持という者がある。

 まどかにそう告げると,なんだか不安そうな声を出していた。


 大丈夫。

 私は彼には恋しない。


 その時ははっきりそう思っていた。




 あと,彼には辛い過去があるらしいということも聞いた。

 具体的には話してくれなかったが,それが『謝らない』という話に繋がったんだと言う。


 意味不明である。


 とにもかくにも,笹宮まどかは楢崎聡二に恋をした,という事実は揺るぎない。


 まどか自身のこと,楢崎君のこと。

 問題は山積みだが,いつか,そう遠くないうちに私の力を借りたいと,まどかが言ってくれた。

 何をどうすればいいのか分からないけれど,それは絶対に果たすと約束した。




 だって,まどか。


 一生言うつもりはないけれど。




 あなたが私の『初恋』の人なんだから。

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