呪いのブレスレット

外並由歌

プロローグ

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 悪夢のような現実が、ひたすら逃げ続ける私をただ取り巻いている。夢だったらどれだけ良いだろう。目が覚めたらもう怖いことは何一つなくて、何一つ失われていない、そんな世界であったなら。それでも恐怖が叱咤して私の足を止めない。無数の枝に引っ掛けた擦り傷の痛みも、顧みさせてくれなかった。

 だけどもう諦めてしまいたい。どうしてこんなことになっちゃったの。小さいこどもみたいに繰り返しちゃうけど、そんなのもう知ってる。ううん、しらない。知りたくなかった。だってしってしまったら、わたしはわたしをゆるしてあげられない。

 こんなもの貰うんじゃなかった。


「いや……」


 もうやめて。


「嫌……」


 もうやめて。


「嫌ぁああッ……!」


 もうやめて――!

 ――最後の叫びが確かに虚空を貫いて、ひとつの悪意を祝福する。なぜならこれは儀式だったから。ひとりの悪魔に捧げられるための、呪具の最果て。それが何を喚び覚まそうとしているのかなんて、人間なんかにはたぶん、それこそ知り得はしないんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る