焚き火の誓い
旅商人が放した馬を見つけた俺たちは、
その道中、森の小川で一夜。
夜の闇に星が瞬き、冷たい風が木々を揺らす中、俺たち家族3人は小さな焚き火を囲んだ。
まだ、春がのぞき始めた時期、夜の寒さは厳しい。
「
「
俺はドサッと薪を地面に落とし、得意げに胸を張った。
枯れ枝を集めるの、大変なんだぞ!
焚き火の光が3人の顔を照らし、しばらくの沈黙が流れる。
「…なあ。都に行ったらさ、小さい家買って、毎日こんな風に飯食いたいな」
何の変哲もない夢のような願いが、ふとこぼれた。
「そうだな……。都に家を構えるとなると、それなりの
俺と龍梅は顔を見合わせ、ふっと笑う。
「それがあるんだ」
「それがあるのよ」
「そうなのか?」
予想外の答えに少し驚いているのが伝わってくる。
「おう」
「ええ」
「旅商人さんの馬車の残骸の近くに埋められていたんだ」
きっと、山賊に
その思いが、土奥深くに埋めるという行動に表れていた。
「旅商人さんは最後に託してくれたのを名無しの
「そうか、旦那が……。ん……旦那が? あ、あぁ、幽魂になった旦那にあったと言っていたな……」
龍梅は小さく笑い、、鍋の中をゆっくりとかき混ぜた。
火にかざされた粥の香りが、ふわりと夜の冷たい空気に溶ける。
「お父………信じられないかもしれないけど、これを見たら信じるだろ?」
銅銭がぎっしりと詰まった大きな
「これは……すごいな。……旦那がお前たちに託したんだな。それなら、お前たちが持っていなさい」
お父は記憶を失っていた間、旅商人さんの尽力に心からの感謝を抱きながらも、守れなかった悔いが胸に重くのしかかっているようだった。
その思いの行き場を求めるように、視線は焚火の揺れる炎に向かっていた。
「私は……お前たちの言うことは信じるよ。事故とはいえ、突然姿を消した私の言葉を信じてくれたのだから」
お父は「都に家か」と静かに呟いている。
炎に照らされた指先がゆっくりと動き、手の中の髪飾りをそっと撫で、お母に話しかけているようだった。
「家族で普通に暮らして、普通に生きたいんだ」
「
俺は剣の柄に触れ、前世の記憶がチラリと脳裏をよぎる。
姉貴を失ったあの日の後悔が、胸の奥で疼く。
「龍梅。俺さ、前世を覚えているって言っただろ? 姉貴……。前世で…姉貴を守れなかったんだ。だから、今度は絶対に守る。龍梅やお父を」
声が少し震える。
龍梅は驚いたように俺を見つめ、そっと彼の肩に手を置く。
「龍剣、私もよ。あなたを守るわ。……双子。そう、双子なんだから、どちらかが欠けてもダメでしょ?」
龍梅の言葉に、俺の胸の奥にじんわりと広がる。
彼女の瞳には、揺るぎない決意と、どこか懐かしい姉貴の面影が宿っていた。
姉貴……、俺がもう少し注意を払えていたら、守れたかもしれないのに。
焚き火が静かに揺れ、少しの沈黙が流れたその瞬間――
「ブフッ!」
突然、馬が俺と龍梅の間に首を突っ込んで、でかい鼻息を吹きつけてきた。
焚き火の光に照らされた馬の顔が、まるで「感動的な話なんて聞いてられねえ!」とでも言うように、ニヤリと笑ってるように見えた。
そのまま、俺の顔をデカい舌でベロリとなめた。
「うわっ! お前、タイミング悪いな!」
俺の髪に馬のヨダレがベッタリついてるのを見て龍梅が吹き出す。
「もう、龍梅! 笑うなって! こいつ、絶対わざとやってるんだよ!」
ムッとしながら馬の鼻を軽く叩く。
「ほら、やめろって!」
しかし馬はまるで聞く気がない。
わざとらしく首を振り、さらに俺の背中に鼻を擦りつける。
やりすぎだろ……! どこで洗えばいいんだ……。
「お前、
俺が言うと、馬は抗議するようにブヒッと鳴いて、龍梅の肩にドンと頭を乗せる。
龍梅が「もう、しょうがないんだから!」と笑いながら馬の額を撫でている。
「この馬も、私たち家族に仲間入りしたいのかもしれないな」
3人で笑い合い、焚き火の火花が夜空に舞う。
遠くで小川のせせらぎが響き、安堵が二人を包む。
「明日は
「そうね。夜逃げのように去ったのに」
二人して同時に重いため息を吐く
仕方がない、この手の模様を消す手がかりがあるかもしれないのだから。
本当は戻りたくないはずの龍梅には申し訳ないことをした。
「……粥おかわりできる?」
「龍剣、ほんと食い意地だけは変わらないわね」
文句一つ言わず、優しく微笑む龍梅の笑顔に、俺もつられて笑った。
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