守りたいもの
借家の土間から、粥の米の香りが漂う。
お兄の細い指が、木の杓子をすっと滑らせるように動かす。
その動きはまるで筆で絵を描くように繊細で、鍋の中で粥をこがさないように静かに波を刻んでいく。
瓦屋根の家の欄干には鳳凰文様が彫られ、窓には
「
円卓に肘をついて身を預けるようにしながら、俺はお兄の姿をぼんやりと追った。
「お兄、いつもありがとな」
俺は自然と笑みを浮かべる。
「お兄。本当に
「ん? 何言っているの? 当然じゃない。
「お兄だけなら、
「謝らないで、
野宿の日々は、決して楽なものではなかった。
夏であっても冷え込む夜、硬い地面、どこにも安息の場などなく、ただ身を寄せ合うことでしか暖をとれなかった。
そして、この世界では、野生動物だけでなく、山賊や盗賊も脅威だった。
食糧を奪われれば命に関わるし、何より人間の狡猾さが一番恐ろしい。
「
お兄の声は、静かな湯気に溶けるように柔らかかった。
こんなに気が張っていないお兄を見るのは久しぶりだった。
お兄にあまり心配はかけたくない。
お兄の背後の壁には、いくつもの赤い
どの
んんん?
よく見たらその紙、めっちゃピカピカの新品じゃん!
でも周りが変色している!
ゾワッと背筋にさむいものが伝った。
気になる、超気になる!
今まで気にしないでいようと思ったけどさ。
「ていうか、ちょっと数えてみよう。1、2、3…………25!? いや、多すぎだろ!」
「25枚? でも、
「そういう話じゃないと思うんだけど……」
こんなに
「あら、この家の
「マジか……。おっと。……そんなにあるんか」
ついつい前世で使っていた言葉がでちゃうな……。
そんなことより
家の木戸に
しかし、この
それに、この
「この
俺は、今世はーーお兄がそばにいる限り、俺が守る。
そう決めているんだ。
俺の言葉に、お兄はゆっくりとまばたきし、わずかに視線を落とし粥を見ている。
「
窓の外では、細長い竹の葉が揺れ、夜の闇に紛れてさざめいていた。
「だいたい、
「それは、いいことじゃない。少なくとも今は安心して食事ができるでしょう?」
お兄は、ふと小さく笑いながら「そんなに疑ってばかりじゃ、おいしい粥もまずくなってしまうわよ?」と冗談めかして言った。
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