第13話「閉ざされた峠」
西南の空は、どんよりと雲がたれこめていた。
ユラリ丸の帆も、ここまで来るとほとんどふくらまなくなっていた。
「やっぱり……風が止まってるんだ」
わたしは胸の羽にそっと手を当てた。
ここでも――風がとざされているのが、はっきりと感じられた。
「西南の峠……“風渡り峠”と呼ばれておった場所じゃ。
山を越える風が通う大事な道だったが、今は……」
笠松さんが空を見上げながら言った。
「きゅ……」
ハクはぴたりとわたしの肩に寄ってきた。
(行かなくちゃ……!)
ユラリ丸を山のふもとにおろし、わたしたちは歩きはじめた。
* * *
峠へ向かう山道は、いつもなら風がさわやかに吹きぬけているはずだった。
でも、今は空気が重く、ぴたりと止まっていた。
あたりの木々の葉さえも、まったく揺れていなかった。
「ここまで……風がとざされてるなんて……」
歩いていると、古い茶屋の跡にたどりついた。
そこに、一人の旅人らしいおじさんが休んでいた。
「……おや、嬢ちゃん、峠へ行くのかい?」
「はい! 風を届けに」
「気をつけな。峠は“影結び”にとざされてるって話だ……
このところ誰も越えられんのだよ」
「影結び……?」
「影をしばり、風も道もとめてしまう妖さ……」
(影まで……風を止めてるの!?)
「行ってみます!」
わたしは強くうなずいた。
* * *
峠の上へ近づくと、空気はさらに重くなった。
そして――道のあちこちに黒い影が結ばれたように、ゆらりゆらりと浮かんでいた。
その中心に、大きな“影結び”が見えた。
まるで黒い糸がぐるぐるとからまり、峠の風の道をぎゅっとしばっているみたいだった。
そのとき――低い声が響いた。
**「……ここはもう……誰にも通さぬ……
風も人も……とざされたがよい……」**
「違うよ!
ここは、風が越えていく道なんだ!
みんな――この峠の風を待ってるんだよ!」
わたしは呼び羽に強く願いをこめた。
「風よ――この峠を通って!」
ふわっ……
かすかな風が生まれたけれど、影結びがそれをぴたりとしばりつけてしまった。
「……うっ……!」
「この妖は手ごわいのう……
夢乃どの、影は影――光を呼べばほどけるかもしれん」
笠松さんが言った。
(そうだ……!)
「風よ――光とともに!」
ぱあっ!
呼び羽が大きく光を放った。
その光に、ハクのしっぽの光も重なる。
笠松さんの風笠もふわりと風を起こした。
その風と光が――
影結びに差しこんだ!
しゅるしゅるっ……
黒い糸がほどけていき、風の道がふたたび通った!
「やった……!」
空気が一気に軽くなり、木々がさやさやと揺れはじめた。
峠を越える風が、再び吹きぬけていった。
* * *
山を降りるころ、空からまた新しい便りが舞い降りた。
**「南の森、風おさまりし」**
「……次は森だね」
わたしは羽にそっと手を当てた。
まだまだ、風を届ける旅は続いているんだ。
「行こう、ハク、笠松さん!」
ユラリ丸は西南の峠を越え、次の空へ――。
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