同級生とご対面

「行ってきまーす!」


「はい、いってらっしゃい」


 朝花崎さんに見送られ、元気いっぱいに外に出る。

 いやー、Vトゥーバーになれるのもだけど、そもそも新しい学校ってなんかわくわくするからなー。

 これが武と伸二が居なきゃ違ったかもしれないけど、やっぱり友人がいるのってでけぇな。


「おはよー! 二人ともお熱いこって」


 三軒並びで住んでいるため、合流もとてもスムーズだ。

 だから、家から出た時点ですでに伸二が愛華さんと腕を組んでいる姿はばっちり目に入っている。

 まあ、伸二からすでに聞いていたけど、なんと愛華さんが伸二の為に転入してくるそうで、本当に熱々だ。

 一方、武は恵梨さんと腕を組んでるけど、星稜高校の制服を着た見知らぬ女の子が二人いるんだよな。

 この二人が鐘ヶ江さんの双子の従妹らしくて、武の為に編入するらしい。

 一族で囲い込むってこう言う事なんだなぁ、なんて思いながら合流を果たす。


「雄介、おはよう。まあ、恵梨さんとはここまでだけどだ」


 なんて武が爽やかに答え、行ってきますと言いながら恵梨さんとチークキスを交わす。

 いやぁ、なんか、微笑ましいやり取りだよなぁ。

 うむうむ、友人達が幸せそうでなにより。

 まあ、恵梨さんの従妹らしい双子が凝視していたのが印象的だったけど。


「おはー。ふわぁっ、ちょっと寝不足だからきっちぃわ」


「うふふ、昨日のお喋りもとても楽しかったですわ」


「俺もー」


 あー、二人の世界に入ってらぁ。

 まあ、伸二も愛華さんも幸せそうだからいいけどさ。

 こりゃ学校にいる間も意外と俺の事そっちのけにされそうじゃねーか?

 いや、邪魔したい訳じゃねーし、こういう時は俺は空気となろう。


 熱々な伸二達を放置し、武へと視線を向ければ、何故か恵梨さんとじゃなく双子の従妹達と腕を組んでるんだが?

 え? なにこれ? ど言う事?


「あっ、これは、そのだぁ。むー、恵梨さん。やっぱ恥ずかしいからなんとかならねーかな?」


「ごめんなさい。私だって心の底から良しとしている訳ではないのだけど、こうでもしておかないと心配なのよ。武君が魅力的すぎるから……だから、あんた達調子にのるんじゃないのよ!」


「はーい! 恵梨ねーさんの邪魔はしないってー」


「うんうん、邪魔はしないよー。でも、私達も単に武君と仲良くなりたいだけなの。ね、お願い」


「うっ、ゆ、雄介、助けて」


 いや、今の流れでどう助けろと?


「まあ、その、なんだ。武、頑張れ」


 やむなく激励の言葉を掛けてやったのに、武はがっくりと項垂れやがった。

 いやいやいや、流石従妹だから恵梨さん似の美人双子じゃん。

 この野郎何が不満なんだよ! って、恵梨さんとこそイチャイチャしたいし不安にさせたくないって昨日散々聞いているから知っているけどさ。

 でも、恵梨さんの言葉的にこれは必要な事みたいだし、やっぱ諦めてなんとか受け入れろとしか俺には言えねーよ。


 うーん、俺なら全員丸ごと愛してやるぜ! ってなりそうだけど、この辺りやっぱり武は硬派で、だからこそ前の世界でも裏ではモテてたんだろうなぁ。

 俺や伸二が誰かに好かれているなんて聞いた事ないけど、武はなんだかんだ流行りの見た目じゃないってだけで、十二分に男前だし性格も格好いいし、そりゃ武を好きな子はいるって噂くらい耳に入るってもんだ。


 ……、俺が惨めになるからこれ以上考えるのは止めておこう。

 どうして二人とこんなに差が付いちゃったかなー。

 一緒に並んで登校しているはずなのに、伸二は愛華さんと二人の世界発動中だし。

 武は武で双子となんだかんだ楽しく喋っているし。

 俺、完全に一人なんだけど! うわぁぁぁぁぁ、マジで悲しいぃぃぃぃぃ!




「それでは、相良さん、松野さん、堀田さんは普通科A組に。宮野さんと鐘ヶ江さん達は特進科B組になります」


 事前に聞いていた通りの事を、俺らの担任だと言うふくよかで優しそうな雰囲気の教師から伝えられる。

 いやー、この世界に来て美人さんとばっかり出会ってたから、逆に新鮮と言うか、ほっとすると言うか。

 でも、別に見た目が悪いって訳じゃなく、本当になんか柔らかい雰囲気の先生なんだよなぁ。

 なんか、生徒からの人気も高そう。


 なんて、その後簡単な説明をしてくれている間、俺はくだらない事を考えてしまう。

 だって、全部事前に聞いていた事なんだもの。

 多少違う事を考えるくらい許してくれ。


 そんな訳で、伸二と愛華さんとのお涙頂戴みたいなお別れシーンを堪能した後、女性陣と別れ俺達は担任の前田まえだ先生の後を追ってクラスに向かう。

 途中在校生達から滅茶苦茶見られるけど、それは仕方ないだろう。

 この学校の男子って1割満たないらしいし、そりゃ男の転校生って珍しいだろうから。


 いやー、男性保護区の話は少しだけ聞いたり調べたりしたんだけど、かなりの男がそこで生活したがるって本当なんだなぁ。

 これでこの学校の男性率って、かなり高いそうだし。

 あくまで総数的に男女比がおおよそ二対八なだけで、実際はもっと低いって言うの実感するぜ。

 うーん、俺からすると男だけが良いってよく分かんねぇなぁ。

 そりゃ武や伸二とバカやるのめっちゃ楽しいけどさ、普通に彼女や嫁欲しいやん。


「こちらになりますが、最初に私が説明してきますので、いったんここで待っていてください。呼ばれてから中に入るようにお願いします」


 前田先生からそう言われ、大人しく武達と廊下で待つ。

 実は朝のホームルーム前なのか、他のクラスの女子生徒らしい女の子達が結構いて、めっちゃ視線が合うんだよな。

 その度に笑顔を作ってみたり、手を振られたから振り返してみたりしたけど、きゃーきゃー言って喜んでくれているっぽいので、普通に気分が良い。

 まあ、武は真面目だから直立不動で待っていたし、伸二に至っては愛華さん何してるかなーとか呟いてたから、そもそも心ここにあらずみたいだったけど。


 ほどなく俺達が呼ばれ、そこでチャイムの音が校内に響く。

 すると、蜂の子を散らす様に廊下にいた女子生徒達が教室に戻って言っていたので、朝のホームルーム前って言う考察は正しかったらしい。

 って、そんな事はどうでもよくって、しんっと静まり返った教室に注目を浴びながら入るのって緊張するのな。

 ただ、排他的な雰囲気がないので、そこは良かったけど。


「さて、それでは順番に簡単に自己紹介をお願いします」


「はい。松野武と言います。鐘ヶ江さんとお付き合い関係にありますので、それを頭に置いて交流をお願いします」


 んえ? 武第一声でなに言ってんの?

 なんて俺がびっくりしていたら、なんと伸二もその後に続く。


「堀田伸二です。宮野愛華さんとお付き合い関係にあります。その邪魔をするなら容赦しないのでよろしく」


 あー、なるほど。

 つまり、一族に囲われるってこんな感じになっちゃうのかぁ。

 いや、まあ、こうしとかないと大変らしいってのは俺も聞いているし、二人には愛する唯一の人が居るから仕方ないんだろうな。

 うん、横顔見たら愛華さんの事にまたトリップしている伸二はともかく、武は少し恥ずかしそうにしている。

 つっても、俺は別にそう言うしがらみないし、普通に皆と仲良くしたから思った事を話そうかね。


「相良雄作です。二人と違って彼女いなんで、気軽に仲良くしてくれると嬉しいです。ちなみに、二人とは元々友人だから、二人に何か用事があるなら俺が窓口になるんでよろしく」


 よし、こんな感じかな?

 なんて思っていたら、まっすぐ綺麗な手が上がる。

 最前列の、丁度俺の目の前の女の子だったので、思わずなんですか? なんて聞いちゃった。

 その俺の問いかけに応えるように、俺を見つめてその子が話し出す。


「つまり、相良君も二人と同様にクラスメイトとは友人関係以上の付き合いはしないと言う宣言で良いんでしょうか?」


「んえ? 今のそっなっちゃうの? 違う違う、俺、絶賛彼女募集中だから! この二人だけあっと言う間に彼女作っちゃってズルいんだぜ」


 予想だにしない言葉が飛んできたので、俺ははっきり言い返す。

 と、その子が突然立ち上がり、同時になんか四人ほど頭を抱えたのが視線の端に映った。


「じゃあ、私彼女に立候補します! 早乙女さおとめ茉子まこって言います。よろしくお願いします!」


「あっ、えっと、早乙女さんめっちゃ美人だし、その、本当に俺なんかで良いの?」


「貴方が良いんです! よろしくお願いします!」


 あまりの勢いに、初対面で? って驚きもあってつい聞いちゃったんだけど、完全に言い切られてしまった。

 と言うか、なんか、ガンギマリしたような目で、ちょっと怖いんだけど。

 ほら、周りのクラスメイトの皆も、あまりの迫力に驚いてたり、苦笑いを浮かべているよ。

 なんか、頭を抱えてた四人は変わらず頭を抱え続けているし、一部は嫌らしい笑み浮かべている連中とかいたりするけど。


「まあ、そこまで言うなら一旦お試し期間って事でよろしく」


 お互いに中身を知らないので何とも言えないけど、仲よくしようって言うの自体には賛成なのでそう答える。

 と、武と伸二以外が滅茶苦茶びっくりしたんだけど、なんで?

 と言うか、立ち上がってる貴女、君が言い出したんだよ?

 え? どうして俺がおかしいみたいな雰囲気になってんの? 解せん。

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