第3話


「リュティスはね……グインエルのことが好きだったの。

 とても大切なお兄さんだったのよ」



 アミアの私室のソファに座っていた。

 血が出ていたメリクの口の端をハンカチで拭いてやり、手当てしてやりながらアミアは優しい声で言った。

 メリクはこくんと頷いている。


 それは、知っている。

 感じたのだ。

 でもいざはっきりと言われると、何故か心の奥がちくりと痛んだ。

 あのこの世の全ての孤独を背負い込んだようなリュティスも、誰かを深く愛していたのだ。

 

(文字通り聖域だった。……もしかしたら私よりも、

 ずっとリュティスの方がグインエルを必要としていたのかもしれない)


 だからといって今回のような感情的なやり方は反対だし、何よりリュティスらしくなかった。

 メリクはグインエルという人間を知らないのだ。

 なのにこんな風に手を上げるなんてあまりにも可哀想だと思う。

 アミアはメリクを抱きしめた。


「もう二度とこんなことはさせないわ」


 しかしメリクは首を振った。


「ぼく……、ぼくが何か悪いことを言ったんです。

 リュティス様の機嫌を損ねるようなことを――ぼく、謝りに行きます」


 急いで立ち上がったメリクの手をアミアは思わず掴んでいた。

 それは一瞬の予感のようなものだったのかもしれない。


「いいのよメリク。

 リュティスは人に謝られるのは嫌いなの。それを受け入れられない自分も」


 腕を掴まれてメリクはハッとしたようだった。

 翡翠の瞳が色を失い、変に静かになるのをアミアは見ていた。

 それでもメリクは小さく頷いた。

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