風の大精霊様の条件を聞き、それを飲んだ精霊術士は
「行っちゃった……ってうわっ!?」
僕たちの前から一瞬で消え去ったシルフィード様。そんな彼女に気を取られているリアだったが、自分が自由落下を開始したことに気づき慌てて体勢を整えようとする。しかし、動き出しが遅くなってしまったが故に間に合いそうもない。
「危ない!エル!」
〈うん!
その状況に僕がエルに呼びかけると、彼女も予め準備していたのか落下速度を軽減する魔法を発動してくれる。
「これ、な、らっ!」
風羽のおかげで落下速度が低下したリアは、何とか体勢を整えると、周囲の木々を利用し地面に着地する。
「"固定"、解除。」
そんな彼女の様子を見つつ、僕は地面に衝突するギリギリのところで時空間魔法を発動し、僕自身の落下の影響を無くし、軽く着地する。
「大丈夫だった?」
「うん。何とかね……。……それよりも、大精霊様を追いかけないと……。」
「……いや、それはやめたほうがいいよ。」
そう言って今にも駆け出そうとするリアに、僕は待ったをかける。
「何で?早くしないと時間が……。」
「それがシルフィード様の思惑だよ。」
「……え?」
僕の言葉に、素っ頓狂な声を上げるリア。
「そもそも、考えてみてほしいんだ。僕が、シルフィード様ほどの力を持った精霊の場所を見失うと思う?」
「あ!……じゃあ、なんで自分が不利になるようなことを……?」
そして続く僕の言葉に目を見開くリアだったが、当然の疑問に行き着いたのかすぐに考え込み始める。
「それは、この場所が関係してるんじゃないかな。」
「どういうこと?」
首を傾げつつそう聞いてくるリアに、僕は近くにあった樹に手を伸ばしながら答える。
「ちょっと前に、あの集落の周りの森の性質については話したよね?」
「うん。確か昔の魔法に影響されて、森自体がその魔法の性質を持っちゃったっていう……。」
「そうそう。……それと同じことが、この森にも起きてるんだよ。ほら。」
「!?消えた!?」
僕の伸ばした手が樹に触れた瞬間、10メートルはあろうかという大きさの樹が霧となって消失する。
「この辺り ── 『迷いの森』は元々、あの集落に住んでる人たちの避難所として整備されてたんだ。だから、あの集落以上に隠蔽が厳重でね……。……この辺りには、"人避け"と"感覚の攪乱"に加えて"
「元々?今は使われてないの?」
「うん。僕が作った魔導具で逃げられるようになったからね。……作るの物凄く大変だったけど。」
その時の苦労を思い出し、若干遠い目になる僕。
「へー……そうなんだ……。」
「まあ、それは置いておいて……。……問題は、ここからなんだ。この辺りにかけられてた魔法の中で一番厄介なやつが、この森に定着しちゃったんだよ。」
「それってどう言う効果なの?」
「"精霊避け"と、"魔法無効"だよ。」
「……え?それ、本当……?」
「うん。」
「……不味くない?」
僕の説明に、リアはそう口にする。
「まあ、魔法に関しては普段の1,000倍くらいの魔力を消費すれば使えないこともないけど……なるべく使いたくはないね。まあ、この辺はモンスターも出ないし、もしもの時は『祖血解放』を使えばいいしね。まあ、使わないに越したことはないけどね。」
そう言って僕は、リアの方を見る。
「だから、今はリアが頼りなんだ。」
「私が?」
「うん。リアの鼻と耳なら、多分遠くの生き物の気配も分かるよね?」
「うーん……。2〜3kmくらいの距離なら分かると思うけど……。」
「十分だよ。この森には生き物が立ち入ることはよっぽど無いから、生き物の気配を感じたら教えて欲しいな。」
「分かった。」
「それじゃ、行こっか。」
「うん!」
そうして、僕たちは『迷いの森』を抜けるべく動き出すのだった。
── 数十分後 ──
「こっちだよ!」
「了解。」
『迷いの森』を進むこと、数十分。僕たちはようやく『迷いの森』の外縁部にたどり着いていた。
「……見えた!」
そして、リアの後について川を越えた瞬間、薄い膜を通り抜けたような感覚と共に
「……うん。これで抜けられたみたいだね。」
「本当!?よかった……!」
僕の言葉に、ほっと胸を撫で下ろすリア。
── リアの感覚が間違ってた時が怖かったけど、杞憂だったみたいだね。
「それじゃあ、ここからは僕の番だね。」
「うん!お願い!」
僕はそう言って目を閉じると、意識を集中し、魔力を薄く広げていく。。
── ?普段より精霊たちが騒がしいような気がするけど……。……まあ、今は気にしなくていいか。それより、シルフィード様はどこに……。
その結果見えてきた森の様子に若干の違和感を覚えつつ、僕は引き続きシルフィード様の気配を探っていく。すると、僕の感覚が、とある声と姿を捉える。
「── さて、ユーリはどのくらいでここに来るかな?」
「……見つけた。」
ここから反対側の、とある一画。そこの木の枝に座り、幹に凭れ掛かっているシルフィード様の姿を捉えた僕は、小さくそう呟く。
「本当!」
「うん。……だけど、だいぶ遠いな……。……途中から、頑張ってついてきてもらうことってできる?」
「うん!今日は調子がいい日だから、多分大丈夫!」
「分かった。エル。」
〈了解〜。
そして僕がエルに呼びかけると、彼女は僕の背中に風の翼を形作る。さっきの風羽を改良して作った飛行用の魔法、風翼だ。
「それじゃあ、一気に行くよ。」
それが問題なく動くことを確認した僕は、リアをお姫様抱っこすると、風の翼に一気に魔力を流し込むと、そう言って空に飛び出した。
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