精霊術士たちは、長老のもとに向かったのち、
「着いたよ。」
「うわぁ……!ここが……!」
広場からさらに歩くこと数分後。僕たちは集落の北側にある大樹 ──
「すごい大きいね!」
「うん。言い伝えによると、この世界ができたばかりのころからここに生えてるらしいからね。」
「へー!……でも、どうやって上まで登るの?」
なかなかお目にかかれない世界樹に目を輝かせるリアだったが、ふと何かに気付いたような表情をするとそう聞いてくる。
「まあ、見てて。」
僕はそう言って、世界樹に手を触れる。
「樹魔法、
すると、僕の呼びかけに答えた世界樹がひとりでに動き出し、上部へと続く階段を形成する。
「さ、行くよ。」
その様子に呆気にとられているリアの手を取ると、僕は階段を上っていくのだった。
「── 長老ー?いますかー?」
階段を上り続けること十数分。森の木々を突き抜け、『魔の森』全体を見渡せるほどの高さまでたどり着いた僕は、そこに小さく建てられているツリーハウスのドアをノックしつつ、中に呼びかける。
「返事、無いね……。」
しかし、何度呼び掛けても一向に返事の帰ってこない状況に、リアがそう小さく呟く。
「どこかに出掛けてたりするんじゃない?」
「いや……。あの人、こんなところに家を造るくらいには引き籠りだから、よっぽどここにいると思うんだけどなぁ……。」
「── 何じゃ?こんなところまで来てうるさくしおって ──」
「……あ。」
「あだっ!?」
そんなリアの意見に言葉を返しつつもう一度ドアをノックする僕。すると、不意に扉が開き、その奥から小さな人影が姿を見せる。しかし、ドアをノックしていた僕はその手を止めることができず、そのまま人影の頭に手が当たってしまう。
「何じゃいきなり!?……って、ユーリじゃったか。」
「すいません。あまりにも自然に開けられちゃったので。」
「……まあ、さっきのは完全に儂が悪いの。」
「え、えぇっとぉ……?」
不意打ちを食らって若干涙目になっていた彼女だったが、僕の姿を確認すると少し驚いたような表情になり、そして僕に話しかけてくる。
「む?見ない顔じゃな。お主の連れか?」
「はい。」
「そうか。……何か聞きたいことでもあるのか?」
そして小さく零されたリアの言葉に、初めてリアに気付いたような素振りを見せる彼女。
「ユーリ。ちょっといい……?」
そんな彼女の言葉に一瞬逡巡し、小さく僕に手招きをするリア。
「何?」
「……あの人が、ユーリの言ってた……?」
それに従い僕が近付くと、彼女に聞こえないように小さな声で聞いてくるリア。
「そうだよ。」
「本当……?でも……。」
「あー……。……何となく言いたいことは分かるけど……。……それは、本人に直接聞いたほうがいいと思うよ。」
「え……?気にしてたりとかは……。」
「全然?むしろ、実験がうまくいったって喜んでたよ?」
「そうなの……?」
「……もういいかの?」
そして小さな声で話を続ける僕たちに、どこか寂しそうな雰囲気を纏いながら聞いてくる彼女。
「す、すみません……!……ところで、つかぬ事をお聞きしますが……。」
そんな彼女の言葉にリアは一度体を跳ねさせると、そのまま彼女に問いかける。
「何じゃ?」
「えーっと、あなたがこの集落の長老様、なんですよね……?」
「そうじゃ。」
「……じゃあ、なんでそんなに小さいんですか……?」
そう。
「── じゃが、さすがの儂も年には勝てなくての……。そこで、噂に聞いていた"若返りの秘術"を研究し、使ってみたんじゃが……。想像以上に若返ってしもうての。結果、こんなちんまい姿になってしまったという訳じゃ。」
「そ、そうだったんですね。」
「まあ、目的自体は達成できたし、こうして生活する分には何の支障も無いから、あまり気にしてはおらんがの。」
外で立ち話をするのも何だということになり、ひとまず彼女の家の中に入った僕たち。彼女のサイズに合わせて造られた内装に少し苦戦しつつ各々落ち着ける場所を見つけた僕たちは、そこで彼女の昔話を聞いていた。
「……ま、この容姿に関してはこんなところじゃな。ところで……ユーリよ、こんなところまでわざわざやってきて、儂に一体何の用じゃ?」
長老はそこで昔話に一度区切りをつけると、そのまま僕にそう問いかけてくる。
「リアにこの集落の工芸品を渡してもいいか聞きに来たんです。」
「なるほどの。……うむ。いいぞ。実際に話してみても彼女からは悪い気配は感じられなかったし、何よりお主の連れてきた者じゃからな。」
「ありがとうございます。……じゃあ、僕たちはこれで。」
「ちょっと待って!」
目的を達成した僕がこの場を後にしようとすると、不意にリアが声を上げる。
「ちょっと長老様に聞きたいことがあるから、ユーリは先に行っててもらってもいい?」
「え?……まあいいけど……。どのくらいで終わりそうなの?」
「大体10分くらいで終わらせようかなとは思ってる。」
「……分かった。じゃあ、先に降りてるね。」
リアにしては珍しい行動に少し驚きつつ、僕はそう言って長老の家を後にするのだった。
── リア 視点 ──
「……して、儂に聞きたいこととは何じゃ?」
ユーリの足音が聞こえなくなったところで、長老様が私にそう問いかけてくる。
「ここにくる途中で、告白すると末長く一緒にいられるっていう場所の噂を聞いたんですけど……。」
「ああ、あそこのことか。……じゃが、お主らはもう付き合っとるんじゃないのか?」
そんな私の言葉に、長老様は至極真っ当な質問を返してくる。
「それはそうなんですけど……。……ここにくる前、ユーリの家で『完全同調』について聞いたんです。それで、その後ユーリに色々聞いてみたら、自分より他人を大事にしちゃいそうで……。」
「なるほどのう……。確かに、あやつならそうしかねないの。」
その問いに私が答えると、長老様は納得の声を漏らす。
「……そういう事なら、儂も協力しよう。」
そしてしばらくの沈黙の後、長老様はそう口にする。
「!本当ですか!」
「うむ。儂もあやつの危うさは危険視しておったからの。あやつが死ねば、世界に与える影響が大きすぎる。あやつが無茶をしなくなるのはこちらとしても助かるしの。」
そう言って、長老様は噂の場所について教えてくれる。
「ありがとうございました!」
「うむ。上手くやるんじゃぞ。」
私はそうお礼を言うと、弾む足取りで樹の階段を降りていく。
「── む?そういえば今日は満月じゃったか。……そうなると、面白いことになるやも知れぬな。」
後ろで長老様が、小さくそう呟いたことに気付かないままに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます