そこで、少女は精霊術士の

「さて、それじゃあ自己紹介をさせてもらおうかな。僕はカイル。昔は冒険者としてソフィアと一緒に冒険をしてたんだけど、いろいろあって今はここで静かに暮らしてるんだ。」

「私はソフィア。一応この集落の長老の孫ではあるけれど、とっくの昔にあの家からは離れてるから、立場としては普通の住民と変わらないわ。」

「わ、私はリアです。一応生まれはミナス公国の『銀狼族』ですけど、一族を追放された身なので、身分的には平民と同じです。」


そして僕の両親が机の向かい側に座ったところで、お互いの自己紹介が始まる。とは言っても、リアのことはアイリが手紙で伝えていたようで、簡素なものだったけど。


「……?僕の顔に何かついてるかい?」


すると不意に、父さんがそう口にする。


「!……いえ、その……少し、気になってしまって……。」


その言葉を受けリアは一度肩を跳ねさせると、申し訳なさそうにそう口にする。


「ああ、この身体のことかい?……これは僕が無茶をやった結果なんだけど……知らない人が見たら、やっぱり気になっちゃうよね。」

「無茶……?でも、身体が精霊みたいになるなんて聞いたことが……。」

「まあ、最近はこんなになるまで精霊とつながる人もいないだろうからね。知られてなくても仕方ないよ。」


父さんの言葉に疑問を口にしたリアにそう返しつつ、父さんは話を続ける。


「……この身体は、精霊術士の中でも精霊と盟約を結んだ人しか使えない、『精霊同調』の影響でこうなっちゃったんだ。」

「『精霊同調』、ですか?」

「うん。術士と精霊の絆を媒介に、精霊と文字通り繋がる。それが『精霊同調』なんだ。……そして、精霊と繋がると、僕たち術士の意思で精霊の使う魔法が使えるようになるんだ。ただ……。」

「ただ?」

「……精霊と繋がりすぎると、徐々に術士の身体に影響が出るようになるんだ。僕みたいに体が精霊と同じように魔力になっちゃったり、魔力を自分の力で生み出せなくなったり……。……最悪、術士自身が完全に精霊になってしまって、戻ってこれなくなってしまうこともあるんだ。」


── そうして語られたのは、精霊術士の中でも一握り、精霊と盟約を結んだ者だけが使えるようになる、『精霊同調』のことだった。


「そんな……。」


そして、それの持つ大きすぎるデメリットに、リアはそう声を漏らす。


「……まあ、最近は精霊と盟約を結べる人自体が減ってるし、盟約を結んだとしてもわざわざ『精霊同調』を使うような人はあんまりいないんだけどね。」


そう言うと、父さんは表情を硬いものに変える。


「今こうして『精霊同調』について話したのは、実は君たちにも大きく関係してくるからなんだ。」

「え……?」


そして告げられた言葉に、リアが僕のほうを見る。


「ユーリ、最近『完全同調』を使ったね?」

「……やっぱりばれちゃうか。うん。使ったよ。」


僕は父さんからの問いかけに、そう答えを返す。


「……あ……。もしかして、海龍王リヴァイアサンと戦った時に……?」


それを聞いて、リアがそう聞いてくる。


「うん。……最初は使うつもりはなかったんだけど、さすがに強くてね。」

「リアさん。ユーリは、普通の人よりも深く精霊と繋がることができる。だからこそ他の精霊術士とは一線を画す強さを持っているけれど、それ故に大きな危険も併せ持っているんだ。……君の体質については、アイリからの手紙で聞いているよ。だからこそ、君にはユーリにとってのアンカーになってほしいんだ。」


そして父さんは、リアのことをまっすぐに見つめなおし、そう口にする。


「君ならユーリとも仲良くやっていけそうだし、何より……万が一があったときに、君ならユーリと一緒に居続けることができそうだしね。……改めて、ユーリをよろしく頼むよ。」

「私からもお願いするわ。」


そう言って、父さんと母さんは頭を下げる。


「頭を上げてください!……私はユーリと離れるつもりはないですし、ユーリをずっと支えていきたいと思っていたので……。……そのくらいのことでしたら、聞くまでもなく受け入れますよ。」


それを見、リアは慌てたようにそう口にする。


「そうか。助かるよ。……しかしユーリも隅に置けないな。」

「そうね。なかなか帰ってこないと思ったらこんなにいい子を捕まえてるなんてね。リアさん、ユーリとはどんな風に出会ったの?」


そんなリアの言葉を聞き、父さんと母さんはほっとしたような表情を浮かべる。……そして、そのままリアとの距離を詰めると、そんなことを聞いてくる。


「ふぇっ!?……えぇっと、ユーリと出会ったのはダンジョンの中で ──」


突然距離を詰めてきた父さんと母さんに驚きつつ、リアは問いかけに一つずつ答えていく。だけど……。


「それで?ユーリのどこが好きなんだ?」

「ちょっと!?本人がいるところでそういうことを聞くのはやめてくれないかなぁ!?」

「えぇっと……いつも優しくて、私のことをずっと気にかけてくれて、それでいて有事の時には誰よりも頼りになるところ……ですかね。」

「リア!?」


そんな父さんの質問に、思わず僕は大声を上げる。しかし質問を受けたリアはというと、少し頬を赤らめて僕を見つつ、そう答える。そんなリアの可愛らしい仕草に、僕は胸が高鳴るのを感じる。そして、そんな僕たちの様子を見て、父さんと母さんはにやにやと笑みを浮かべている。


「……あ!長老に挨拶に行かないといけないんだった!リア、行くよ。」

「えっ、ユーリ!?」


そして、その場の空気に耐えきれなくなった僕はリアの手を掴むと、そのまま家の外へ飛び出すのだった。

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