次の目的地は、『魔の森』、森人の森。

「── ここから道が厳しくなってくるから、離れないよう気を付けてね。」

「う……うん……。……ユーリ、よくそんな平気な顔していられるね……。」

「まあ、慣れてるからね。」


テティの町を出て数日後。僕たちは木々が鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていた。


「でも……何で……こんなに……厳しい道を……?」

「……きっと結界を作った人が普通の人には来てほしくなかったんじゃないかな。」


木々の隙間の道なき道を進みつつ、僕はそう答える。


── うーん……やっぱりこの環境だとリアでも厳しいか。この状態でモンスターに襲われたら大変だし、ちょっと休憩かな。


後ろで息を切らしつつついてくるリアの様子を見、僕はそう判断する。そして、


「エル。お願い。」

〈了解~。〉


僕はエルに頼んで、一時的に少し開けたスぺ-スを作ってもらう。


「リア。少し休憩にしようか。」


僕は背後を振り返りつつ、そう言うのだった。


「── ぷはっ!おいしい!」

「そっか。……その感じだと、だいぶ疲れてたみたいだね。」

「うん。……でも、何でだろ?確かにこの環境には慣れてないし道も厳しいけど、こんなに疲れるほどじゃないと思うんだけど……。」

「それは多分、昔の結界の名残だね。」

「結界?」

「うん。前にこの森を覆う結界のことについては話したよね?」


僕の言葉に、リアは頷く。


「その結界の効果が、"人除け"と"感覚の攪乱"なんだよ。その結界自体は大分昔に解除されたんだけど……長年結界に覆われてたせいで、この森自体が結界と同じ性質を持つようになっちゃったんだよね。」

「へぇ……。だからあんなに疲れてたんだ。」


僕の言葉に、リアは納得の声を上げる。


「リアの場合は、普通の人より感覚が鋭いからね。ただでさえ"人除け"に対抗しながら進むのはは疲れるのに、気を抜いてたら変な方向に進もうとしちゃうんだもん、そりゃあ疲れるよ。」

「……これ、何とかならないの?」

「うーん……。」


リアの言葉に、僕は少し考えこむ。


── 一応、あの集落の周囲で取れる素材を使った何かを身に着けてれば大丈夫なんだけど……。……それやると長老にめっちゃ怒られるんだよなぁ……。確かに下手に人を入れるのに問題があるのはわかるけど、にしてもちょっとくらいはいいじゃんねぇ……?


「一応一個対応法はあるんだけど……。……今の僕じゃ、それやったら怒られるしなぁ……。一応村に着いたら聞いてみるけど、駄目だったら慣れるしかないかな。」


そんなことを考えつつ、僕はリアに返事を返す。


「そっか。」

「ごめんね?」

「ううん。ユーリが無理って言うんだったら、よっぽどの事情があるんだろうしね。」

「……ありがとう。」

「それより、早く行こ!」


僕がお礼を言うと、リアは一度うなずいた後勢いよく立ち上がる。


「そうだね。だいぶ回復したみたいだし、行こっか。」


そんなリアの様子に、僕は小さく笑みを浮かべつつ立ち上がるのだった。




「── だ・か・ら!何度も言ってるじゃないですか!」

「ならん!この集落には森人エルフ、もしくはその血縁しか入ることができんのだ。お前らのような人族ヒューマン獣人アニマルは、入ることなどできん!」

「僕がその血縁なんだって!長老にも許可は取ってあるし、そのことは伝わってるはずなんだけど!」

「そんな連絡は来ておらん!」


数時間後。集落の入り口にたどり着いた僕は、門番をしている男性と言い争っていた。理由としては、僕とリアを入れてくれないから。長老からの許可証や森人の血縁であることを示す証を見せても「偽造だろう」の一点張り。この集落には"転移"でも入れないからここを通るしかないのに……。……こいつ、頑固過ぎない?僕史上一番の頑固者なんだけど?精霊たちみんなも苛立ち始めてるし、早めに終わらせたいんだけど……。


「── あら?ユーリ?」


皆が暴れ始めたらとんでもない被害が出てしまうが故に僕が内心冷や汗をかきつつそう主張していると、不意に背後から声がかかる。


「!あなたは!」


その声の主の姿を見た男性は、驚いたような声を上げて頭を下げる。


「……久しぶり。母さん。」


どこか焦ったような男性のその姿に苦笑を浮かべつつ、僕は彼女 ── 僕の母親にして、長老の孫娘である女性に、そう返事をするのだった。

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