溶岩湖の主と戦い、

「リア!」

「うん!」


僕達はマグマホエールの姿を視認した瞬間、予め決めておいた通りに散開する。


「── と、これがフレイムドラゴンへの対策かな。」


このダンジョンに潜る数日前、馬車の中で、僕達はダンジョンの奥で出てくるであろうモンスターの対策を考えていた。


「そうだね。これならかなり安全に倒せると思う。」

「だけど……問題はこいつが出てきた時だよね……。」

「Sランクモンスター、マグマホエールかぁ……。」

「常に溶岩で体が覆われてて、仮に引き剥がしてもその脂肪のせいで打撃はほとんど効果無し。しかも溶岩に潜るたびに身体を覆う溶岩が再生して、炎耐性も高い、と……。」

「しかも戦いが長引くほど動ける場所が無くなっていくから、短期決戦で決める必要があるよね。」

「うん。……だけど、この巨体を一撃で何とかしようと思うとかなりの溜めが必要になるかも。」

「って言うと?」

「こいつを覆ってる溶岩を引っぺがして、その脳天に僕の使える手段の中で一番貫通力の高いやつを使えば多分倒せるんだけど……。この技、1分くらい溜めが必要なんだよね。しかも、演算中は攻撃できないっていうおまけ付き。」

「それは……流石に厳しいかも……。」

「……そうだ。こういうのはどう?」

「……確かに、それなら……!」


「── まずは……出てこい!」

〈アス!〉〈うん。〉〈〈溶岩操作!〉〉


まずはレイとアスの能力の合わせ技で溶岩を操作して、マグマホエールを溶岩の海から引きずり出す。


「スイ、エル!行くよ!〈大瀑布!〉〈風潰!〉」


そして、大量の水でマグマホエールの体表を覆う溶岩を固め、吹き飛ばす。


「ここからは……リア!お願い!」


僕はそう言って、魔法の演算を開始する。


纏雷てんらい土槍どそう纏鉄てんてつ風縮ふうしゅく水縮すいしゅく……。」


僕が魔法名を唱えるたびに、僕の前に大量の魔法陣が重ねられていく。その間に、マグマホエールは溶岩の海へ戻ろうとするが、


「させない……!」


と、リアがマグマホエールの鼻っ面に、拳による痛烈な一撃を叩き込む。その衝撃で浮き上がったマグマホエールに、リアは連撃を叩き込む。その結果、マグマホエールは空中に浮き上がったまま溶岩に潜ることができないでいる。


「流石は銀狼族……。パワーが桁違いだ。」


僕が詠唱の合間にそう呟くのとほぼ同時に、マグマホエールが大きな声をあげる。その瞬間、僕達に向けて溶岩の槍が降り注いでくる。当たれば、一撃で死んでしまうような攻撃だ。だけど……。


「それは、対策済み!リア!」

「うん!」


僕の合図で、リアはあらかじめ渡しておいたアクアマリンを割る。


「文字通り虎の子・・・の魔法だ!」


それを見つつ、僕はそう声をあげる。


── その瞬間、周囲に全てを凍り付かせる風が吹き荒れる。それは溶岩の槍も、マグマホエールも、僕達も凍り付かせようとする。氷魔法の中でも最上位の魔法、絶対零度アブソリュート・ゼロだ。


「レイ!リアを!」

〈分かった!〉


その魔法を受け慣れている僕は、レイに頼んでリアを暴風から守ってもらう。


── っ!?準備するときどんだけ魔力込めたの、これ!?ちょっと耐え切れるか怪しいかもしれないんだけど!?


そんなことを思いつつ、僕は体の表面に魔力を集中させ、氷の侵食を何とか抑えていく。そして、


「耐え……切った……!」


体の所々に氷を貼り付けつつもそれを耐え切った僕は、氷に覆われて物言わぬ氷像となったマグマホエールの脳天に狙いを定める。


「これで終わりだ!全属性複合魔法、穿星せんせい!」


僕がそう唱えると同時に、何重にも重ねられた魔法陣から鉄で覆われた槍が出現し、他の魔法で一気に加速し、射出される。その速度は音よりも早く、僕は衝撃波に吹き飛ばされそうになる。


「くっ……!祖血解放!」


僕は瞬間的な筋力が大幅に上がるじいちゃんの血を解き放ち、四肢を地面に突き刺す。


そして、僕の放った魔法は寸分違わずマグマホエールの脳天を貫通し、そのまま孤島の奥深くへと潜っていく。


「あっ、やば!解除!」


それを見て咄嗟に魔法を解除した僕は、ようやく終わった、と長く息を吐き出す。


「ふぅ……。何とかなったか……。」

「ユーリ!鼻血出ちゃってるけど、大丈夫?」

「うん。ちょっと頭に無理させちゃっただけで、全然動けるよ。」

「本当?」

「うん。」


僕の元に駆けよってきたリアの問いかけに、四肢を引き抜きながら僕は答える。


── なんだぁ!?……槍……か?これ。


すると、僕達の足元、孤島に空いた穴からそんな声が漏れ聞こえてくる。


── しっかし、どこからこんなもんが……。……この感じ、上か?


すると、僕達の前に一塊の炎が出現し、そこから声がする。


「これ、あんたらがぶっ放したのか?」

「はい……。こいつを倒すために撃ったんですが……。」

「ん……!?お前ら、こいつを倒したのか!」

「まあ、結構危なかったですが。」


── 主に絶対零度の威力を測り間違えて、だけど。


「ほう……。……ん?お前、もしかして?」

「はい。」

「なるほど。それじゃあ、続きはこっちで話そうぜ。」

「分かりました。」


すると、ふと何かに気づいたように僕に聞いてくる炎。その問いかけに僕が肯定を返すと、僕達を温かな炎が覆う。


「よく来たな。客人。まあ、ゆっくりしてってくれ。」


そして、その炎が収まると、僕達の前には一人の男性が立っていた。

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