精霊王の愛し子

葉隠真桜

プロローグ むかしむかし、あるところに

とある国の、とある家。そこに、とある一つの家族の姿があった。


「── 二人とも、もう寝る時間ですよ。」


とある一室から、そんな声がする。どうやら、母親が子供達を寝かせようとしているようだ。柔らかくウェーブした栗色の髪を背中まで伸ばした優しげな女性だ。


「えー?もう?」

「これだけおわらせちゃだめ?」


その声に答えるのは、四歳くらいの二人の子供だ。その肌と髪は雪のように白く、紅い瞳がよく映えている。非常に似通った顔立ちの二人だが、その髪型は大きく異なっていた。


片方は、その真っ白な髪を肩の辺りで切りそろえており、もう一人は癖のないまっすぐな髪を背中まで伸ばし、後ろで一つにまとめている。


そんな二人が手に持っているのは、非常に複雑な立体パズルだ。大の大人でも解くことが出来ないようなそれを、二人は八割方解き終えている。


「続きは明日でもできるでしょう?」

「えー?でも……。」


母親の言葉に不満そうな表情を見せる、髪の短い子供。髪の長い子供も口にこそ出さないが、ずっと手元でパズルをいじっている。


「トウカも仕方のない子ね。そんな子には、夜のお話は必要ないかしら?」


しかし、そんな母親の言葉に、二人はばっと顔を上げる。


「おはなし!そっちのがだいじ!」

「……ここまでできてれば、たしかにつづきはあしたでもできる。」


そんな二人の様子に母親は笑みを浮かべつつ、


「それじゃあ、ベッドに向かいましょうか。」


と言う。


「うん!おにいちゃん、きょうそうしよ!」

「いいよ。」

「それじゃあ……よーい、どん!」


すると二人はそんな合図と同時に走り出す。こと元は思えない速度で走り去っていく二人に、母親は


「怪我はしないように気をつけてね~!」


と、声をかける。そして、どこか困ったような笑みを浮かべ、


「二人とも元気いっぱいなのは良いけど……。……ちょっと元気すぎるかしら?あのパズルももうすぐ解いちゃいそうだし……。……才能がありすぎるのも考えものね。」


と独りごちながら、二人の走って行った方へ歩いて行くのだった。




「あっ、きた!」


数分後。母親が部屋に入ると、トウカと呼ばれていた髪の短い方の子供が母親に勢いよく抱きつく。


「あら、元気ね~。」


母親は彼女を受け止めて頭を撫でつつ、ちらりともう一人の子供の方を見る。もう一人の子供はトウカの様子を、うっすらと微笑みを浮かべながら見ていた。


「この感じだと、今日はトウカの勝ちだったのかしら?」

「うん!」


その答えを聞き、母親は「頑張ったわね。」とトウカの頭を撫でた後、もう一人の子供の方へ向かう。そして、


「ノアも、いつもありがとう。」


と、トウカには聞こえないくらいの声量で子供に感謝を告げる。するとノアはごく僅かに目を見開くと、笑みを深めて頷き返す。


「なんのはなし~?」

「なんでもないわ。それより、早くベッドに横になったら?」

「そうだった!」


そんな二人の会話にトウカが口を挟むと、母親は話を切り上げ、子供達にベッドに横になるよう促す。


「じゅんびおっけー!」


そんなトウカの言葉を聞き、母親はベッドの横にある椅子に腰掛け、優しい声で物語を紡いでいく。


「これは、むかしむかしの、とある精霊術士のおはなし ──。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る