幕間 丘の上の病弱貴族


 ここはパレダスの港町

 街の喧騒から離れた静かな丘の上に、その別荘は建っていた。


 眼下には穏やかな湖がどこまでも広がり、まるで鏡のように空と雲を映している。港の市場からは活気ある人々の声や、貿易船の汽笛が遠く風に乗って届くが、ここまでは喧騒の残響すらも優しいBGMのようにしか聞こえない。


 周囲には青々とした芝生と手入れの行き届いた庭園。バラや季節の花が咲き誇り、湖から吹き上げる涼やかな風が花弁を揺らす。

 別荘そのものは白い石造りの洋館で、窓枠やバルコニーには装飾的な細工が施されており、貴族たちの間で人気の別荘地帯にふさわしい優雅な佇まいを誇っている。


 広いテラスからは湖と港町を一望でき、夕暮れ時には水面が黄金色に染まり、町の灯りがほのかに瞬く絶景が楽しめる。

 湖畔からは時折、商人たちの威勢の良い掛け声や、異国情緒漂う市場のざわめきが聞こえるものの、ここでは全てが遠く、心地よい静寂が守られている。


 この時期の港町は、一年でもっとも過ごしやすい季節を迎えていた。


「ノエル様、討伐大会の結果が送られてきました」

「あぁ、ありがとうセバス」


 ノエルと呼ばれた青年はベッドから窓の外に見える湖を儚げに眺めていた

 執事セバスからの報告を聞き微笑んで答えた


 太陽に照らされキラキラと輝いている金髪の長髪とは裏腹に色白の目元はどこか力がない


「今年はどうでしたか?」

「私はまだ拝見していないので、ご自身の目で確かめるのが良いかと」

「そうさせてもらうよ」


 ノエルは生まれつき身体が弱く、滅多に外出ができない

 1年の大半をこの別荘で過ごし、外に出れても庭先まで


 そんなノエルにとって外界の話を聞くのが数少ない楽しみだった

 セバスから受け取った紙を食い入るように読み込む


「なんと!今年はキングトードが現れたんですね!」

「ほほぉ、歴史書にしか残っていないような伝説上の魔物ですな」

白銀の大鎌シルバー・サイスのイーリスさんがトドメを指したようです」

「最近名前をよく聞く方ですね」

「はい、次世代も順当に頭角を現してきてますね」


 普段は落ち着いたノエルが少年のようにはしゃいでいる

 セバスにとって主が喜んでいるこの瞬間が幸せなひと時であった


「キングトードの討伐ポイントは計上されていないようですが、

 今年も白銀の大鎌シルバー・サイスの優勝ですか

 討伐ポイントは・・・・おぉ!・・・・ゲホッゲホッ」

「ノエル様あまり興奮してはなりません」


 セバスは手慣れたように側にあった水を手渡し、ノエルの背中を優しく撫でる


「ごめんごめん・・・・ついね」


 ノエルも慣れているのか微笑は絶やさない


「今年はジャイアントトードが多く出現したこともあって全体的にポイントが高いみたいです」


 ノエルは嬉しそうに紙を見せた


白銀の大鎌シルバー・サイスの討伐ポイントは337ポイント!

 史上最高ポイントですよ!」

「それはすごいですな

 それにしてもこれだけの魔物が沼地に生息していたのかと思うと肝が冷えますな」

「はい、冒険者様様ですね」


 再び紙に目を落とし隅々まで読み込む

 その時ノエルはあることに気が付いた


「ん?このパーティ・・・・」

「どうかされましたか?」


 ノエルが指差したのは紙の隅の方に書かれた圏外パーティの討伐ポイントだ


「討伐ポイント103ポイントですか

 可もなく不可もなくといった感じですな」

「本当にそうですか?」


 ノエルの問いにわからないといった顔のセバス


「このパーティ、登録人数が2人なんですよ」

「なんと!2人で100ポイント越えですか・・・・」

「1人当たりの討伐ポイントは白銀の大鎌シルバー・サイスの1.5倍になります」

・・・聞かない名ですな」

「そうですね、もしこの街に来ることがあれば会えるでしょうか」


 ノエルは湖の水平線の向こうを眺めながらつぶやいた


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