今夜の寝床

「ありがとうリーナさん、助け舟を出してくれて」


 先頭に立って廊下を進むリーナさんのお尻の布とスベスベの膝の裏をチラチラ見つつ、僕はお礼を言った。


「まぁ実際お兄さんの能力が本当に効果的であればあたしたちにもメリットはあるしね」


 むき出しの白い背中をこちらに向けたまま、素っ気なく答えるリーナさん。僕の隣を歩くエリスさんが口を開いた。


「リーナちゃん、明日のクエストってどんなの?」


「オークの巣窟の殲滅よ」


 僕は驚愕のあまり声を割り込ませた。


「オ、オークの巣窟っ!?」


 オークと言ったら、ゲームとかファンタジーの世界では一際野蛮で残虐な種族として有名だ。


「ちょっ……一対一ならともかく、群れで集まっているような場所に、リーナさんは一人で乗り込もうとしていたの!? しかも……その……そんな軽装で……!?」


 胸の膨らみと腰の前後だけを布切れで隠しただけの服で、しかも武器なしの素手と素足だけ。

 こんなの、自ら酷い目に遭いに行くようなものだ。


「なによ、一対複数なんていつものことよ。それに軽装って言うけど、踊り子はその方が強くなれるって、もう知ってるでしょ? 下手に着込む方が、かえって危ないのよ」


「そりゃそうかもしれないけど……」


 踊り子……なんて勇敢なんだ……。

 エリスさんもオーガ戦で自分よりも遥かに大きな化け物に正面から立ち向かっていったが、今度はリーナさんがオークの群れの中に単身飛び込もうとしている。

 普通なら軍隊でも組んで討伐するものだ。まだ女子高生くらいの年齢なのに、その勇気にはつくづく感服させられる。


「でも、リーナちゃん一人じゃ大変だよ! エリスも一緒に行く!」


 エリスさんがピンク色のツインテールを弾ませながら力強く申し出る。


「エリスと一緒にデートできるのは嬉しいけど……あたし一人で十分よ。エリスはオーガのクエストが終わったばかりでしょ? ここで休んでて」


 デートって……。

 いや、二人は親友ということなので、ただの女の子同士の外出というニュアンスとして捉えておこう。


「違うの、リーナちゃん一人なら大丈夫かもしれないけど、お兄さんを守りながらオークの群れと戦うのは大変だよっていう意味。……あ、ごめんねお兄さん! お兄さんが弱いとかそういうことじゃないからね! お兄さんじゃなくても普通の人がオークの巣窟に入るのは危険っていうこと!」


 必死に取り繕うエリスさんもまた可愛い。


「だ、大丈夫、全然気にしてないから。その通りなので、うん」


 リーナさんが考える表情を見せる。

 

「なるほど……それは一理あるわね。お兄さん、多分オークから一発殴られただけで死んじゃいそうだし。庇い続けるのはちょっと手間ね」


「そ。だからエリスがお兄さんのそばについて守るから、リーナちゃんは攻めに集中して。それにエリスはオーガと戦ったあとにお兄さんの癒掌術を受けたから、体力は全快しているよ!」


 エリスさんは持ち上げた両腕を肘から曲げ、元気アピールをする。いちいち可愛い。

 しかもエリスさんが僕にくっついて守ってくれるとのこと。裸同然の女の子に護衛してもらうとは大の大人の男として何とも情けないが、エリスさんがそばにいてくれるのは正直嬉しい。


「分かったわ。じゃあエリス、明日一緒に行きましょう」


「うん! ふふっ……久しぶりのデートだね、リーナちゃん」


 エリスさんが微笑みかけると、リーナさんはカーッと頬を赤くした。


「もう、エリスったら……! でも、エリスも危なくなったらちゃんと言うのよ?」

「うん、分かってるよ。でもエリスも強いから心配しないでね」


 なんかいつの間にか二人並んでイチャつき始めてるが……。


(デートって……女の子同士の外出って意味で、いいんすよね……?)


 頭の中で再確認していると、別の疑問が浮かんだ。


「あの……ところで今夜僕はどこに泊まればいいのかな?」


「空き部屋はあるけど、掃除もしてないからちょっとすぐには使えないわね」


「じゃあエリスのお部屋でいいよ。野宿したときみたいに、一緒に寝よ?」

「なんですってェ!?」


 エリスさんの過激なお誘いを僕が頭で理解するより早く、リーナさんが廊下中に怒号を響かせた。


「野宿で一緒に寝た!? どういうことよお兄さん!? あたしのエリスを寝取ったってこと!?」


「ちちち違うよ! 何もしてないって!」


 そう、あの晩の僕の理性力は褒めてほしい。

 にしても寝取る寝取らないとか、リーナさんの言葉の端々には毎回混乱させられるが……その時エリスさんが慌てて割って入って来た。


「わ、分かった、分かったよリーナちゃん! じゃあ今夜はエリスがリーナちゃんのお部屋にお泊りするね! で、お兄さんはエリスの部屋を使っていいよ! これでどう?」


「エ、エリスが、あたしの部屋に、お泊り……っ?」


 頭から水をかぶったようにリーナさんは冷静になった。それでも頰は紅潮していた。


「ほら、しかも今夜は二人でステージに立つでしょ? リーナちゃんのお部屋で一緒に練習しとこ?」


「ああ……エリス……いいわねそれ……すごく……いい……っ」


 リーナさんは瞳をとろんと潤ませてエリスさんを見つめる。


(あの……二人って本当にただの友達っすか……?)


 思わせぶりすぎる二人のやり取りに始終困惑しっぱなしの僕だったが、とりあえず今夜の寝床は確保できた。

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