踊り子特化の能力

「その者の持つ癒掌術とやらは、元々非常に微弱な力なのでしょう。普通の人間に施そうとしてもほぼ効果はない」


 シュベリという怪しげなローブ姿の男が、フードの下でニヤニヤとほくそ笑みながら推論を述べる。


「一方、踊り子は素肌を晒すことで全身の感覚や神経を敏感にさせる、身肌集中という状態に常にあります。故に癒掌術がいくら微弱なものであっても、肌の感覚が研ぎ澄まされている踊り子にだけは顕著に効果が現れるということ。つまり、踊り子特化の能力というわけです」


 なるほど――シュベリの口調は胡散臭いものがあったが、理には適っていた。

 エリスさんの方を一瞥すると、彼女も納得したような表情をしていた。


「ふむ……それが本当なら、確かにディラメルの踊り子たちの支援役として適任ではあるな。であればそこのエリスに癒掌術をかけて証明してみよ」


 興味深そうに顎を擦りながらムバータが指示してくる。懐疑心が薄らいだようだったが、次の問題があった。


「それが、その……今のエリスさんにやっても意味はないといいますか……消耗していない踊り子さんに癒掌術をかけても効果が現れないんです」


「なにィ……? ということは今この場で証明はできないということか?」


 再び怖い視線で僕を睨みつけてくるムバータ。

 今エリスさんに癒掌術をやろうとしても、ただ悶えさせるだけだ。それこそ、またバカにしてるのかと激昂されるだけ。


 やばい。せっかくいい調子だったのに、また印象が悪くなってしまっている。

 僕が答えあぐねていると、


「だったら、あたしで証明してみせればいいわ」


 扉が開いてポニーテールの踊り子――リーナさんが髪と胸と腰布を揺らしながら入ってきた。


「リーナさん……!? え、今ここで……!?」


「違うわよ。あたしは明日クエストに出かけるんだけど、お兄さんも一緒について来なさい。クエスト中なら癒掌術をかけるタイミングはあるはずよ」


「な、なるほど……!」


「もっとも、あたしは疲弊なんてしないでしょうけどね。今はこれくらいしか証明する方法がないわ。――それでいいですか? ムバータ様」


 黙って見物していたムバータは、ふんと鼻を鳴らして口を開いた。


「いいだろう。若造よ、明日リーナに同行し、彼女を癒掌術とやらでサポートするがよい。リーナ自身がその効果を実感したなら貴様の能力を認め、ここに置いてやることを許可しようではないか」


 なんという活路――!

 さっき手痛い歓迎をしてきたリーナさんに、まさかフォローしてもらえるとは。


「言っとくけど――」


 綺麗なつま先をくるりと僕の方に向け、鋭い視線でリーナさんは言う。

 

「あたしは中立の立場よ。お兄さんの癒掌術の効果が微妙だったりしたら、認めないからね」


「わ、わかってるよ……」


 有利なのか不利なのか分からなくなってきたが、話は終わったと言わんばかりでムバータが顎をしゃくった。


「ではもう行くがよい」


「は、はい、失礼します」


 軽く一礼し、僕はエリスさんとリーナさんに連れられるようにして部屋のドアへ向かった。

 それと入れ違うかのように、シュベリがムバータにこそこそと近寄っていった。


「ところでムバータ様……」


 ローブの裾で口元を隠しながらムバータに何やら耳打ちするシュベリ。

 不穏なそのやり取りを目の端に見送りながら、僕は執務室を出た。

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