第2話 中抜きってできるの?

「農家からの買い取り価格と、店頭価格が違い過ぎる! 間に入っている業者、特にJA(農協)が中抜きしてぼろ儲けしている!」



 一番多い不満マシマシな意見がこれですね。


 米や野菜を作っているのはもちろん農家ですが、そこからJAが買い取り、市場に流れて、最終的にスーパーやなんかの店頭に並ぶのが、おおよその行程です。


 消費者である皆さんの手元に届くまで、いくつかの業者を経て、ようやく届くのが通常の流れなのです。


 その“中間業者”の中で、一際大きいのはもちろんJAです。


 全国に販売網を持ち、金融機関まで備えている、最強の農業関連企業です。


 農家ならば、ほぼ間違いなくお付き合いしている企業であり、自分のようにJAにだけ生産物を売りに出している農家も少なくありません。


 そのため、今回の米騒動では、目の仇にされてしまいましたね。


 ですが、はっきり言わせていただきます。



「JAが巨額の中抜きをするのは無理! というか、JAの農業部門は万年“赤字”です!」



 意外かもしれませんが、JAってずっと赤字なんですよね。


 にも拘らず存続できているのは、金融部門でその赤字分を補填しているからです。


 農家ならば、間違いなくJAバンクの口座を持ち、そこで物販の代金の出し入れをしています。


 あとは、JA共済で保険やら年金やらを運用している方も多い。


 かく言う自分も、自動車保険(マイカー&トラック2台&トラクター)はJA共済を利用しています。


 火災保険やらもJA共済です。


 農業者年金という、農家だけがかけれる年金も入ってます。


 一般の方でも、地方にいる方は口座を持っている人もかなりいます。


 メガバンクの支店がない僻地であろうとも、“ゆうちょ”と“JAバンク”は絶対にありますし、むしろ地方でこそ、この二つは強い。


 地銀なんぞ比べ物にならない程の力を有しています。


 さて、では本題の中抜き云々についてですが、参考として自分の帳簿を使わせていただきます。


 下のURLで、近況ノートに自分の売上伝票を載せておきますので、ご覧になってください。


↓↓↓


https://kakuyomu.jp/users/neginegigunsou/news/16818622175260874100



 さて、少し数字が見えにくいかもしれませんが、右下にこの日の売り上げが載っていますが、売上総額は27万円。


 しかし、実際に口座の方に振り込まれているのは22万円。


 この“5万円の差額”はいずこに?


 これがJAに渡る分の“手数料”になります。


 県JA、全国JA、市場、運送会社、これらに渡す手数料全部ひっくるめて、売上総額の20%と言ったところでしょうか。


 これを見て、「中抜きの証拠だ!」などと叫ぶのは、理論構築の出発点からして間違っています。


 そもそも、“中抜き”という言葉の意味は、『中間業者を挟まずに直接取引する事』であって、決して『中間業者がピンハネする事』ではないという事です。


 ここを間違えている人が、あまりにも多すぎる!


 ネット販売の普及により、生産者やメーカーなんかと直接取引できるようになり、仲卸や小売り等を挟まずに売買するのが一般的になってきた昨今。



「中間業者を挟むのは、値段を上げる原因になるので不要だ!」



 こういう意見をよく耳にするようになりました。


 ある意味正解ではありますが、同時に巨大な落とし穴があるのも、中間業者の話なのです。


 理由は簡単。



「そもそも、“どこ”に品物を保管しておくんだ?」



 これがまず最初に来ます。


 自分の場合、白ねぎ農家ですから、白ねぎを畑から収穫して、泥を落として段ボール箱に梱包し、出荷できる状態にします。


 それをJAの集荷場に持ち込んで出荷、というのが通常の流れです。


 では、JAを挟まずに出荷しようとするとどうなるのか?


 中間業者を挟まないという事は、“注文が来るまで品物を保管しておく必要がある”という事でもあります。


 そんな場所どこに?


 上記の伝票ですと、出荷箱数は“174箱”になっていますが、それだけの膨大な箱をどこに保管しろと?


 と言うか、鮮度が落ちやすい葉物野菜ですから、鮮度を保つ意味で冷蔵庫は必須!


 そんな巨大冷蔵庫、個人所有しているとでも?


 まあ、自分の場合は、コンテナ式大型冷蔵庫を手に入れましたので、200箱くらいまでならギリギリ入れる事は出来ますが、そんな農家ばかりではありません。


 なら、注文受けてから梱包すればよいのでは?


 そんな不安定な事を続けていたら、間違いなく破綻します。


 注文を受けてから収穫し、梱包して配送手配するのに、いったいどれほどの時間がかかると思っているのでしょうか?


 貯めておく事も不可能ですよ。


 葉物野菜なんて、穀物よりも遥かに痛みが早いですから。


 JAの強みは何と言っても、「何箱でも出荷できる」と言う事です。


 自分の地区の集荷場にも、3000箱は入る巨大冷蔵庫を備え付けてありますので、同地区の農家がどんどん運び入れても満タンになる事はありません。


 なにしろ、翌日には配送されて、再び冷蔵庫は空になりますから。


 それが“手数料”として払っている分です。


 JAには配送手配やらの事務処理があり、冷蔵庫に保管してもらう際の場所代と電気代、都市部へ配送するための運送会社への代金など、それらが“20%の差額”の正体と言う訳です。


 はっきり言いますと、農家にとってはこれが非常に助かっています。


 極端に言うと、『農作物の生産と梱包』だけをやればいいだけで、配送の手配や細々とした事務処理など、面倒事は全部JAがやってくれているわけです。


 保管場所の確保も含めてね。


 なので、JAと付き合っているという事は、農家は『作物を育てる事に集中できる』というわけです。


 実際、日々の作業は作物の世話だけで、収支の帳簿以外の事務仕事とは無縁でいられます。


 それを考えると、“20%の手数料”は妥当だと考えています。


 いくら出しても問題なし!


 煩雑な事務仕事からの解放!


 保管場所の確保の心配もなし!


 こうした恩恵があるからこそ、農家はJAと付き合っているのです。


 JAは大量の農作物を捌ける巨大なネットワークを持ち、そうした流通を熟知しているというわけです。


 そうしたノウハウがあるからこそ、こちらとしても手数料が気にならずに払っていられるのです。


 そうした事情を勘案せずに、「JAを潰せ!」なんて叫んでいるのですから、現場の人間からすれば暴論もいいところです。



「それなら、君がやったらどうだい? ぼろ儲けなんだろ?」



 中間業者を挟まない方が安くなるのは確実ですし、生産者も手数料を払わずに済むので、得られる金額も増えるでしょうが、消費者の手元に届くまでの経路を、全て個人が賄う事になります。


 “中抜き”とはそういう事なのです。


 事務仕事が増えて、小さな農家はまず手が回らなくなりますよ。


 金を取るか、時間(手間)を取るか。


 当然、自分は後者を選択しています。


 前者を選択して、“中抜き”をやってみるといいですよ。


 配送手配に売り先の確保、マジで大変ですからね。


 是非、やってみてほしいもんですね! 出来るのならばね!


 事務に時間を奪われるという事は、農作業にかけられる時間も失う。


 その事をまず認識して欲しい。


 JAを始めとする中間業者は、生産者の代わりにそれらを代行してくれているのです。


 そこを考えずに、中抜きだなんだと叫んでいるのは、本当に腹立たしい。

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