#17 この国の女王はフワフワマシュマロボディ

 ブラウニーが消えた後、僕は急いで赤い騎士の方に駆け寄った。


 兵士達が必死に赤い騎士の止血をしていた。


「あの……大丈夫ですか?」


 聞いてみると、赤い騎士は「あぁ、何とかな」と包帯を巻かれながら答えてくれた。


 僕は本を見開いて、何かいいのがないか探していると、こんな魔法を見つけた。


 治癒のやり方!

 その一、杖を持つ

 その二、空中に治したい箇所に向かって円を描く

 その三、そしたら傷口が塞ぎ、痛みがドンドン消えていくよ!

 以上! 治せるといいね!


 よし、やってみよう。


 杖を出血が酷い腕の方に向けて、円を描く。


 すると、緑色の光が現れ、腕の付け根から滴っていた血が止まった。


 兵士が包帯をはずしてみると、出血が止まっていた。


「おぉ、これは凄い!」


 兵士の誰かが僕の魔法に驚いていた。


 赤い騎士はスクっと立ち上がると、僕の方に向かった。


 まさか斬られるのでは――そう思い警戒していたが、騎士が片方の手で頭のかぶとを外した。


 どこにしまっているのかと思うくらう大きなカールヘアが現れた。


 まさかの女性騎士だとは思わなかった。


「礼を言う。魔法使いの少年」


 騎士はそう言って一礼した。


「ど、どうも……」


 僕も同じように頭を下げた。


 顔を上げて、彼女の顔をみる。


 両眼が猫のように楕円形で、唇は色っぽく膨らんだ――ん? この顔立ち、どこかで見たことあるぞ。


 そう思っていると、「お姉ちゃーん!」と今浮かんでいた顔とそっくりな声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん!」


 予想通りフランチェスカが彼女に抱きついてきた。


 やっぱりそうか。彼女と同じ顔だなと思っていたが、姉妹だったとは。


「フランチェスカ……」


 騎士が妹の頭を撫でた。


 フランチェスカは、彼女の腕がない事に気づいたのか、両眼から涙が溢れ出てきた。


「お姉ちゃん、腕……」

「心配するな。十分戦える」


 震えながら姉に声をかける幼馴染に、姉は優しく答えた。


 だが、それが彼女の悲しみをさらに高まっていったらしい。嗚咽を漏らしていた。


「これ以上、戦ったら死んじゃうよ……私はお姉ちゃんと一生側にいたい」

「フランチェスカ……」


 二人は力強く抱きしめる。


 僕はこの感動的な空気を壊さないように、足音をたてずに後退りした。


 そして、隙を見て駆け出そうとした。


 が、フニャンと柔らかいクッションに弾かれて、尻餅をついてしまった。


「あらら、大丈夫ですか?」


 見上げてみると、エルアがそこにいた。


 だが、それは幻想だった。


 エルアと似たようなグリーンのドレスを着ていた。


 全てを包みこんでくれそうな穏やかな目をしていた。


 だけど、一番エルアと異なっていたのは、身体全体がマシュマロ――いや、幸せがたくさん詰まっているような体型だった。


 この豊満なボディに、僕は仕事疲れのサラリーマンみたいな気持ちになった。


 ベッドにダイブする気持ちで、彼女に思いっきり抱きついたら、さぞフカフカで寝心地がいいんだろうな。


 でも、もしそれをしたらあっという間に捕まって、処刑されるだろう。


 だって、彼女の側には、強そうな兵士達が何人も並んでいる。


 一体どこの身分の人なんだろう。


「女王陛下!」

「マール女王!」


 赤い騎士とフランチェスカ、その他兵士が彼女を見るなり、ピシッと背筋を伸ばして敬礼していた。


 女王――まさかこの国を支配している人か。


 確かによく見れば、頭にティアラを付けているから、王族であることは間違いない。


「た、大変失礼しました! まさか女王陛下だとは思わず、身体をぶつけてしまうとは……どう償えばよろしいか……」


 僕は必死に女王に暴行した犯罪者にならないよう謝った。


 マール女王は心優しい方で、ニッコリ微笑んで「いいんですよ」と僕の横を通り過ぎていった。


 赤い騎士の前に立つと、表情が少し険しくなった。


「ロマネリィ・バーモル。この事態を終始教えてください」

「ハッ!」


 赤い騎士ことロマネリィは、ブラウニーとの一戦などを余すことなく話した。


 ただ何故か僕が悪魔を帰した事や彼女の傷を癒やした事は伏せられていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る