第9話 姉とのデートそのさん with 両方
◇
……とある祝日。
「わぁ……!」
「さすがに賑わってるわね」
思わず歓声を上げる美紅姉と、冷静そうにしながらも声色からテンションの高さを隠し切れない明日香姉。……俺たちがいるのは、家から少し離れた所にある遊園地だ。大型連休を利用して訪れたここは、この辺では割と有名な遊園地だったりする。
「よぅし! 全部のアトラクション乗るよ!」
「無茶言うなよ」
ノリノリな美紅姉には悪いが、ここは有名な遊園地だけあって人出はかなり多く、殆どのアトラクションはかなりの行列が出来ている。場合によっては数時間待ちだったりするので、今日中に全部乗るのはまず無理だ。
「ちゃんと、主だったアトラクションの待ち時間を事前調査して、それを考慮した効率的なルートは構築しておいたわ。全部は無理でも、出来るだけ多くのアトラクションは乗れるはずよ」
明日香姉は、相変わらずのゴスロリ衣装で無駄に知的なことを言っていた。眼鏡のせいで、余計な知的さが増して、より滑稽になってる。……そういや、大学時代に巡回セールスマン問題を齧ったとか言っていたな。複数地点をより効率良く巡るルートを求める問題で、これを応用すれば、アトラクションを効率良く乗りまくれるというわけだ。
「まずは目玉のコースターよ。今の時間ならそこまで混雑してないから、早く乗れるわ」
「それじゃあ、れっつごー!」
両腕を二人に掴まれ、俺は引き摺られるようにしてアトラクションへと向かう。遊園地にテンションが上がっているせいなのか、それともアトラクションに一刻も早く乗るためなのか、かなり強引である。
「……はぁ」
開幕から飛ばしまくってる二人に、俺は嘆息した。……今日は二人に振り回されて、ヘトヘトになるのが容易に想像できる。最後まで体力が保つといいんだが。
「さいっこー!」
「目玉なだけはあるわね」
ジェットコースターに乗って、テンションが最高潮の美紅姉と、澄ました顔で外していた眼鏡(コースターに乗るので外してた)を付け直す明日香姉。次はお化け屋敷に行くらしい。二人とも相変わらずタフだな……美紅姉は普段から体力が異常だからまだしも、明日香姉もこういうときはいつも以上に元気になるし。
「さ、行くわよ」
「うん!」
そして、またしても俺の両腕を二人がかりでホールドして、次のアトラクションへ連れて行く姉たち。
「別に逃げないから、離して欲しいんだが……」
「何言ってるのよ。混雑してるんだから、はぐれたら大変でしょ?」
「そうだよ! せっかくここまで来たのに、迷子になったら台無しだよ!」
抵抗は無駄だと分かっていながらも一応そう言ってみるが、二人は離してくれる様子がない。美紅姉がくっつきたがるのはいつものことだが、明日香姉もいつも以上に距離が近くて、色々気まずい。
「ほら、あそこよ」
そうしている内に、目的のアトラクションが見えてきた。日本で三番目に怖いお化け屋敷という、何とも反応に困るキャッチコピーのアトラクションだ。何かの賞で三位だったからこうなったらしいが。
「にしても、二人共お化け屋敷なんて興味あるんだな」
明らかに楽しみにしている二人に、俺は思わずそう言った。今まで行く機会自体がなかったのもあって、てっきり二人共お化け屋敷には興味がないのだと思っていた。俺たち姉弟は全員ホラー耐性高めで、美紅姉はホラーを見てゲラゲラ笑ってるし、明日香姉は退屈だからと全然見ないし、お化け屋敷もスルーすると思ったんだが。
「「だって面白そうだから」」
「さいですか……」
しかし、口を揃えてそう言われてしまえば、返す言葉もない。俺は大人しく、お化け屋敷に連行されるのだった。
「うわぁ、怖そ〜う」
「さすが、日本で三番目に怖いって言うだけはあるじゃない」
「……」
お化け屋敷に入って。言葉とは裏腹に微塵も怖そうじゃない美紅姉と、興味深そうに内装を眺める明日香姉。相変わらず、俺は両腕を二人にガッチリホールドされてる。
「ゔぁぁー!」
「おわぁっ……!」
すると、目の前に突然ゾンビが出現。そういうものだと分かっていても、いきなり出てくるとさすがに驚く。
「きゃーーー!」
美紅姉は悲鳴を上げながら、俺の左腕に思いっ切り抱き着く。それどころか腕に頬擦りまでやり始めた。絶対怖がってないだろ……。
「きゃー」
一方の明日香姉は、明らかな棒読みの悲鳴を上げて、俺の右腕に抱き着く。こっちも全然怖がってないな……。
「ゔぉがぁー!」
「きゃーーー!」
「きゃー」
「え、ちょ、これどうすんの……?」
ゾンビが襲い掛かろうとしてくるが、両腕を二人に取られて身動きが取れない。多分、後ろに逃げることを想定してるんだろうけど……このままだと、それも叶わない。
「ゔががぁーーー!」
「きゃーーー!」
「きゃー」
「ちょ、二人とも行くぞ……!」
ゾンビが「はよ行け」とでも言わんばかりに身振り手振りで後方を示してる。俺は二人を引き摺りながら、出口を目指したのだった。
「ったく……何考えてるんだよ」
お化け屋敷を出て、俺は引き摺ってきた二人に愚痴る。……さすがに二人分の体重を引っ張るのはしんどかった。それもこれも、二人が抱き着いて離れないからだ。
「えー? 楽しかったでしょ?」
「お化け屋敷のお約束でしょ?」
しかし、うちの姉たちは反省の色が皆無だ。マイペースなことこの上ないが、アトラクションの係員も困るだろうし、程々にして欲しい。さっきのゾンビも演技しながら困惑してた(気がする)し。
「はぁ……まあいいや。とりあえず、次行くぞ。まだまだアトラクション回るんだろ?」
とはいえ、この二人の理不尽さを今更嘆いても時間の無駄である。俺は気持ちを切り替えて、アトラクション巡りに意識を戻す。
「そうね。次はフリーフォールよ」
「あれ楽しいよね~!」
すると、二人は再び俺の両腕をホールドして、次のアトラクションへ向かい始める。……どうやら、今日はずっと二人に両腕を拘束された状態で過ごさないといけないらしい。
「ふぅ~……遊んだねぇ」
「さすがに疲れたわ……」
日が沈む時間になって。俺たちは観覧車に乗っていた。今日のアトラクション巡りも、これで最後である。……それはいいのだが、この状況にはかなりの問題があった。
「いや、こっちに寄るなよ……ゴンドラ傾いてるじゃねぇか」
そう、相変わらず俺の両隣を二人がキープしているせいで、二人掛けシートをガッツリ圧迫しており、それ以上に三人分の体重でゴンドラもかなり傾いてしまっている。いくらなんでもこの状態は危ないし怖い。お化け屋敷なんかよりよっぽど背筋が凍る。
「別にいいじゃん」
「これくらいで落ちるほど柔な出来じゃないでしょ」
しかし、二人はどこ吹く風だ。全く、この姉たちは……。
「じゃあいいよ、俺が向こう行くから」
「「あっ……」」
仕方ないので、俺は腕を無理矢理解いて反対側の席に移動することにした。二人の寂しそうな声が聞こえてきたが、気にしたら負けである。
「よ、っと」
俺が反対側の席に着いたことで、ゴンドラの傾きが大分マシになる。まだ少し傾いているが、向こうは姉二人がいて重いから仕方ないだろう。
「「今、失礼なこと考えなかった?」」
「いや別に何も」
二人がめっちゃ低い声で同時に問い掛けてくるけど、俺はしれっと首を横に振った。……人数差の話であり、決して二人がデブという意図は込めてない。というか当然のように心を読まないで欲しい。
「ほら、外見ようぜ。夜景、綺麗だぞ」
俺は話題を逸らそうと、外に目を向けた。実際、上空から見下ろす光景は中々のものだった。園内外の灯りによって作られた夜景が広がっていて、正に絶景だ。
「ほんとだぁ~!」
「確かに綺麗ね」
外の光景に、二人とも感嘆の声を漏らした。この絶景は、彼女たちも無視することが出来ないようだな。
「……また、みんなで来たいね」
すると、美紅姉がぽつりとそう呟いた。その声色はどこか寂しそうで、切なげでもあった。
「そうね……」
それに応じる明日香姉も、似たような感じだった。……二人は社会人だし、俺も就職すれば三人全員の都合が良いタイミングも少なくなるだろう。俺は一応大学進学するつもりとはいえ、受験やら何やらで忙しくなって、姉弟で出掛ける時間が取れなくなることもあり得る。
「来ればいいだろ。何度でも、さ」
でも、だからって悲観する必要はない。多少忙しくなったって、三人で遊びに行くくらい、その気になれば出来るはずだ。
「ほむちゃん……」
「焔……」
俺の言葉に、姉たちが俺の名前を呼びながら、こちらに移動してくる。……って、ゴンドラ揺れてるんだが。
「また絶対みんなで来ようね!」
「ええ、絶対よ」
そんなことも気にせず、二人は揃って俺に抱き着いて来る。なんか良い雰囲気だけど、それは関係なく普通に怖い。……俺って、もしかして高所恐怖症だったのか?
「……ああ」
とはいえ、今の状況でそんなことを口に出す勇気もなく。俺は空気を読んで大人しく頷いておいたのだった。
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