第5話 姉たちとのゲーム大会
◇
……とある金曜日。
「ほむちゃーん! ゲームしよっ!」
夜。夕食と入浴を済ませたところで、美紅姉がそんなことを言い出した。ゲーム機のコントローラーを手に持っていて、完全にやる気満々である。
「いいけど、スパプラか?」
「うん!」
俺が挙げたゲームの名前に、美紅姉は大きく頷いた。……大激闘スパークプランター。動く植物が戦うという設定の、老若男女問わず大人気な格ゲーだ。当然我が家にもあるし、みんなでやり込んでいる。
「いいけど、美紅姉とタイマンか……」
せっかくのお誘いだが、このゲームは美紅姉が得意としているタイトルなので、タイマンでやるには分が悪すぎる。
「あら、ゲームするの?」
すると、そこへ明日香姉がやって来た。風呂上りなので髪を下ろして眼鏡を外している姿であり、地味にレアだったりする。
「そのつもりだったんだけど……そうだ、明日香姉も一緒にやろうぜ」
「別にいいけど……もしかしてスパプラ?」
「うん!」
明日香姉の問いに美紅姉が答える。我が家にあるソフトで美紅姉が最も得意なのがスパプラだからな。想像はつくか。
「まあ、三人にCPU入れたら丁度良いか……」
渋々といった感じだが、明日香姉はテレビ台に置いてある自分のコントローラーを手に取って参加表明する。……ゲーム全般得意な明日香姉だが、スパプラだけは美紅姉のほうが上手だ。でも、俺やCPUが入ればいい感じに混戦模様になって勝負になると判断したらしい。というか、俺もそう思ったから明日香姉を誘ったんだけども。
「よーし! じゃあやろー!」
美紅姉はゲーム機をセッティングすると、ソフトを起動して対戦を始める。俺は持ちキャラの赤い植物戦士、明日香姉は持ちキャラの青い植物銃士を選んだ。対する美紅姉は―――
「今日はこの子かなー」
美紅姉が選んだのは、最弱と名高いピンクのマスコット植物。美紅姉は持ちキャラというものがなく、毎回違ったキャラを選択するが、この最弱キャラでも十分強いから困ったものだ。
「じゃあ、いっくよー!」
開幕早々、美紅姉のキャラが俺のキャラに突っ込んでくる。お互い近接戦向きのキャラだが、こちらのほうがリーチは長い。
「させるか!」
だが俺は即座にバックステップで距離を取った。ここで先制攻撃を仕掛けようものなら、回避された挙げ句距離を詰められてハメ技まで持ってかれる。
「焔、とりあえず美紅から倒すわよ!」
「分かってるって!」
そして明日香姉のキャラが遠距離から美紅のキャラを攻撃する。ここで明日香姉やCPUと戦っても、消耗したところを美紅姉に狩られるだけなので、先に倒しておいたほうが後々楽である。
「二人共酷いよ……!」
口では非難しつつも、美紅姉は俺たちの攻撃を華麗に捌いていく。時には同士討ちさせるように立ち回ったり、時にはCPUの攻撃に巻き込んだりして、こちらにダメージを蓄積させていった。
「よっしゃ! アイテムゲット!」
だが、俺がアイテムを手に入れて流れが変わった。拾ったのは一定時間無敵になれるというもの。俺は無敵を盾に、美紅姉のキャラに突っ込んでいく。
「ナイス!」
「え、ちょっ……!」
こうなると美紅姉もさすがに厳しくて、明らかに慌て出す。明日香姉のキャラからの遠距離攻撃に巻き込まれて同士討ちするリスクもないし、こちらは無茶が出来る。となれば必然、美紅姉のほうは動きに余裕がなくなる。
「よしっ、これで―――」
「あっ……」
だが、無敵の時間が終わって状況が変わる。無敵だからと明日香姉の攻撃に巻き込まれに行ったのが仇となり、俺のキャラにダメージが一気に入る。
「え、ちょ」
「ヤバッ……!」
そして、明日香姉のキャラの背後からCPUが攻撃を仕掛けてきて、俺と美紅姉のキャラ諸共巻き込まれる。
「「「あ……」」」
防御弱い明日香姉のキャラも、ダメージが蓄積していた俺と美紅姉のキャラも、纏めて場外に吹き飛ばされる。今回の対戦はCPUの一人勝ちという、不完全燃焼な終わり方となった。
「……なんかあれだったけど、もっかいやる?」
「だね」
「だな」
さすがに酷い結果にも程があったので、もう一度仕切り直すことにした。
「ふぅ……遊んだ、遊んだ」
溜息を漏らしながら、コントローラーを下ろす美紅姉。……あれから数時間に渡り、俺たちはゲームで遊び続けた。スパプラだけでなく、レースゲームやパーティーゲーム、横スクロールRPGなど、様々なジャンルのゲームをプレイした。
「さすがに遊び過ぎたわね……もう日付も変わってるし」
明日香姉が時計を見てそう言った。確かに、既に時間は十二時を過ぎている。もう休日とはいえ、あんまり夜更かししてると、昼まで寝て過ごすことになってしまう。それはさすがに勿体なかった。
「そろそろ寝るか」
「そうね」
俺がそう言うと、明日香姉も頷いて、一緒にゲーム機を片付け始める。
「あれ? 美紅姉は?」
「いないわね……」
片付けが終わる頃、俺は美紅姉がいないことに気づいた。……遊ぶだけ遊んで、もう寝たのだろうか?
「ねーねー二人共ー!」
と思っていたら、美紅姉が戻ってきた。手にはデカい毛布を抱えている。
「今日はみんなで一緒に寝よっ!」
「「はぁ……?」」
美紅姉の提案に、俺と明日香姉の声が重なる。こいつ、正気か……?
「いーじゃんたまには! みんなでゲームで夜更かしして、眠くなって雑魚寝するの!」
「まあ……言いたいことは分かるが」
相変わらずのぶっ飛んだ言動ではあるが、美紅姉の言い分にも少しくらいは理解できる部分もある。……俺たち姉弟も、昔はそうやって一緒に夜遅くまで遊んで、そのまま一緒に寝落ちするなんてよくあったことだ。けれど、最近ではそんなこともなくなった。そのことに寂しさを覚えるというのも分からなくはない。
「よーし! じゃあ、テーブルどかして、カーペットの上で寝よう!」
俺の呟きを肯定と受け取ったのか、美紅姉はリビングのスペースを空けて寝る場所を作り始める。……いや、気持ちは分かると言ったけど、これ本気で一緒に寝るんか? いくらなんでも、この歳でそれはまずくないか? いやまあ、美紅姉はしょっちゅう俺の布団に入り込んでるけども。
「はぁ……仕方ないわね」
一方の明日香姉は諦めたのか、美紅姉を手伝い始めた。……これ、完全に一緒に寝る流れじゃん。
「……まぁいいか」
とはいえ、ここで断固拒否したところで、美紅姉のことだからまた無断で布団に潜り込んできそうではある。だったら、最初から一緒のほうがまだいくらかマシか。
「よしっ! じゃあほむちゃんは真ん中ね!」
「へいへい」
寝床が出来て、俺はカーペットの中央に寝転がる。すると、左隣に美紅姉が転がってきた。
「ほらほら、明日香ちゃんも!」
「はいはい」
そして、明日香姉が俺の右隣に入ってくる。真ん中だけ長いという奇妙な川の字の完成である。そうして三人で毛布に包まり、照明を落とした。
「こうしてると、子供の頃に戻ったみたいだね~」
「そうね。焔が小さい頃、こうしてみんなで遊んで、疲れて眠ったわね」
すると、美紅姉と明日香姉がそんなことを話し始めた。……さっきも思ったけど、俺が小学生だった頃なら、こういうことは何度もあった。あの頃は美紅姉たちもまだ高校生くらいで、今よりずっと時間に余裕があったから、一緒に夜遅くまでゲームをすることも多かったからだ。とはいえ、俺は真っ先に寝落ちして、朝起きたら二人が隣で寝ていたパターンが多かったと思うが。
「またやりたいね」
「まあ、たまにならいいかもしれないわね」
「けど、毎回こうなるのはさすがに勘弁なんだが……」
昔みたいで懐かしいというのは同意するが、だからって毎回姉たちと同衾するのは遠慮したいところだ。子供の頃ならまだしも、今では恥ずかしさと気まずさが半端ない。今も正直落ち着かないし。
「あら、美紅とはしょっちゅう一緒に寝てるみたいだけど?」
「知ってたのかよ……」
だが、明日香姉がからかうようにそんなことを言ってきた。どうやら美紅姉の所業はバッチリ把握していたらしい。
「当然じゃない。朝、時々美紅があんたの部屋から出てくるんだもの」
俺の呟きに、明日香姉がそう返してくる。部屋から出るところを見られたらバレるに決まってるか。
「明日香ちゃんも一緒に寝ようよ~」
「今一緒に寝てるじゃない」
「そうじゃなくて、普段から、だよ」
「なんで弟とわざわざ一緒に寝ないといけないのよ。あんたじゃあるまいし」
俺を挟んで、美紅姉と明日香姉が喋っている。さっきから、二人の吐息が顔に掛かって、くすぐったい。
「でも、ほむちゃん暖かいし」
「湯たんぽじゃないんだから……」
明日香姉の湯たんぽという表現は、確かに言い得て妙だった。そうか、美紅姉は俺のことを湯たんぽだと思ってるのか……。
「ほら、さっさと寝るわよ。あんまり夜更かししてると肌荒れするし、平日になったら朝が辛いわよ」
「はぁい……」
そんな感じで賑やかだった二人だが、明日香姉の一言ですっかり静かになった。俺もそろそろ寝るか……。
「……ん」
意識が浮上し、目が覚める。それと同時に感じる、両腕への圧迫感。
「すぅ……、すぅ……」
「すー……、すー……」
両脇を見やれば、俺の腕に抱き着いて眠る二人の姉。美紅姉はいつも通りとしても、明日香姉まで俺の腕を抱き枕にするとは。何この状況?
「……あぁ、そういやゲームやって、そのまま寝たんだっけ」
そこで、昨夜のことを思い出した。美紅姉の提案で、ゲーム大会が始まって。その後、美紅姉がみんなで寝ようと言い出して。それでそのままみんなで雑魚寝することになったのだ。
「……離してくんないかな?」
そこまで思い出したところで、俺は思わず呟いた。最初はただの添い寝だったはずなのに、いつの間にか腕をガッチリホールドされている。なんか色々当たってて気まずいし、そうでなくても普通に重い。腕を動かせないのもしんどい。
「でも、起こすのもなぁ……」
とはいえ、無理に起こすのも忍びなかった。二人は社会人で、俺と違って平日は働いている。だからこそ、休日くらいはゆっくり寝かせてやりたい。俺の都合で起こしてしまうのは憚られた。
「……二度寝するか」
姉に両腕を拘束されるという謎のシチュエーションの中、俺は再び眠りに就くのだった。
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