あなたが好き



 私、何故か急にこういう言葉を発したくなるときがある。


 「あなたが好き」


 誰か特定の相手がいるわけじゃない。

 誰かに好かれたいから言うわけでもない。

 ただ、ぽろりと心からこぼれるように、この言葉が出てきそうになる瞬間がある。


 見返りを求めているつもりはない――そう思っていた。


 でも、もしかしたら、心のどこかで求めていたのかもしれない。

 「無償の愛」というものを。

 何も言わなくても、何も返さなくても、ただ「そのままでいいよ」と受け入れてもらえる、そんな存在を。


 だけど、それってたぶん……私にとって都合の良い愛なのだろう。


 無償の愛って、美しい言葉だけど、本当はとても重い。

 誰かが自分を大事に思ってくれているのに、それに甘えることしかできない自分に、私はどこかで罪悪感を覚えてしまう。


 それでも、私はこの言葉を手放せない。


 「あなたが好き」


 たとえ自分がどれだけ矛盾していても、不器用でも、面倒くさくても。

 私はたまに、誰かに優しさを投げかけたくなる。

 そして、同じくらいのやさしさで包まれたくなる。


 それだけで、少しだけ、生きるのがましになるから。

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