第2話 ワシと空結ぶ街
「ベルグ様、そろそろポストックに着きますよ。少し遠くですけど高い建物が見えてきましたし」
「ポストックには郵便局って言う大きな建物があるんだったか。街の外からでも見えるんだな」
「はい。それに、汽笛の音も聞こえますし」
そう言われて耳を澄ましてみると確かに高い笛のような音が風に乗って耳に届いた。キンキンしててオレはあんまり好きじゃない音だな。耳の奥に響いてくる感じがして、落ち着かない。
それにしても……
「その呼び方、どうにかならないのか?」
「呼び方、ですか?」
「オレはもう領主邸に戻る気はないんだ、いつまでも様だと堅苦しくて堪らん」
「では、どうお呼びしたら……」
「ベルグで良い。……家族や友人はそう呼ぶからな。それに、様なんぞ付けられてたらオレが凄い存在だと思われるだろ」
「実際にスノーキャット一族は凄い存在なんですが……初代様は世界の創造に関わったと仲間から聞きましたし」
「オレは働かずにダラダラと暮らしたいんだ。凄い奴だと思われたら面倒事を押し付けられそうじゃないか」
「なるほど、分かりました。それじゃ、ベルグ……さん」
「まぁ、良いだろう」
スノーキャット一族はアルヨミ領にしか居ないし領外の街中で見掛けると目立つ。
とてつもなく面倒だし、少し疲れるが騒がれない様にしておくか。
「
「ん?何かしました?」
「お前以外からは一般的な動物に見えるようにした」
「あぁ、ベルグさん……と言うかスノーキャットは目立ちますからね。他の人からはどんな風に見えるんですか?」
「見る奴によるな。トラだったり、ネコだったり、稀にヒクイドリに見える事もある」
「ヒクイドリって……え、鳥ですか?」
「イメージってのは不思議なもんなんだ。オレの姿がどう見えるかは、そいつの頭の中で決まるんだよ」
「魔法って、奥深いんですねぇ……生活魔法位しか使ったことが無かったので驚きです」
「……常時魔力を使うからこの魔法はあまり使いたくなかったんだが、まぁ他のツルツルや動物が居る場所では仕方がないな。"必要経費"って奴だ」
◇◇◇◇◇◇
中央の立派な建物に対して、驚くほどシンプルな門の左右には鳥の兵士が立っていた。ツルツルが声を掛けると此方へと視線を向けて来る。右のオオワシは大袈裟に羽根を広げてお辞儀をする。左のオジロワシは控えめなお辞儀だった。
「すみません。彼と共に街へ入りたいのですが、この街に来るのは初めてで……何かの手続きは必要でしょうか?」
「これはこれは!随分と珍しいお連れ様ですね。ようこそ。空結ぶ街、ポストックへ!私達はスノ――」
「この街は、遥か昔より空と地を結び郵便事業を行っている街になっております。中央に聳え立つ円柱の建物は"ポストック郵便局総本店"となっておりまして、街の中へ入るだけならば特に手続きは必要ありませんが、街で過ごすための手続きはそちらの窓口で行っております」
オオワシの言葉を遮るように口を開いたオジロワシに心の中で感謝を述べつつ軽く頷く。オオワシは不満気に自身の口に押さえつけられた翼を剥がして再度口を開いた。
「何だレイ!急に口を塞ぐんじゃない!!」
「五月蝿い!!……彼がわざわざ魔法を使ってることを考えろ。住民が驚かないように配慮してるって分からないのか?」
「!!」
「トワ、お前は声がデカいんだ。もっと気をつけろ!!」
「くっ、悔しいが事実だから何も言えねぇ……昨日も交代する時、"お前の声は頭に響く"って言われた所だ…!!」
いや、コレはオレが面倒な事に巻き込まれない為なんだが……わざわざ否定するのも無粋か。ここはそう言う事にしておこう。
「察してくれて感謝する。行くぞツルツル。街で過ごすには手続きが必要なんだろ?」
「あっ、はい!それでは失礼します。色々とありがとうございました。お仕事頑張って下さい!!」
「良き風を」
「お二人にニーヴァ様の祝福がありますように!!」
控えめなお辞儀と大袈裟なお辞儀。相変わらず対称的な二人に見送られ、几帳面に組み上げられた赤銅色の石畳を軽やかに進む。それにしても、この石畳は歩きやすいな。
「そう言えばベルグさん、相手によって見える姿が変わるって魔法を使ってたんですよね?」
「使ってたな。……街の出入り口を守護する門番だったり郵便局の窓口の奴なんかは姿を変えたりする魔法を見抜く力だったり魔法を知ってるんじゃないのか?」
「なるほど……魔法も万能じゃないんですね」
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