第2話 (後編)レモンの香りは月の光

「カッコいいな、先輩。」

「うん。でも遠いい存在だよ。」

一組の男女が、きらきら輝いたコンサート会場の舞台を見ている。


中央で歌っているあの人は舞台の煌めきより、輝いていた。


近所のお兄ちゃん。

優しくて格好良くて、子供の頃からの憧れの人。


「お前、ずっと先輩に憧れていたもんな。」

「だって、あの人は私をからかわないし。助けてくれたし。」

ちらりと、彼を見る彼女。


「うっ、それは…… 」

からかいをしていた張本人が目の前の彼だ、彼は気まずそうに彼女から目を逸らした。


彼は彼女の昔ながらの幼なじみだ。子供の頃は、彼女は何かとからかわれていた。


「わ、悪かったよ。あの頃は、その…… なっ! 」

彼は頭をかきながら謝った。


「なにがよ。」

彼女は彼を睨みつける。


「だから、子供なったんだよ。」

彼は気恥ずかしそうに彼女に言った。


「私、傷ついたんだから。すっごく傷ついたんだから!! 」

「俺だって傷ついたさ!! 」

彼の言葉に彼女は目を見開く。


「お前先輩ばっかり追いかけて、俺に見向きもしなくなって…… 」

「なにを言ってるの? 」

そう近所の格好いいお兄ちゃんに気づく前まで二人は仲良く遊んでいた。日が暮れるまで、毎日毎日。


「ずっと俺の前で、先輩の事ばかり褒め続けて、その…… 」

「…… 」

彼女は首を傾げた。


「だから気づけよな!! つまり、こっちを向いて欲しくってからかってんだ!! 」

「えっ? 」

小学生の時とは違って、中学高校と彼ははやめて、彼女に優しくなった。


母に言われたのだ、それは逆効果だと。


彼はいつもとして、彼女の側にいた。楽しい時も哀しい時も、いつもずっと側に。


「つまり、くそっ!! 分かれよな!! 」

「なによ、はっきり言いなさいよ!! 」

真っ赤になって髪をかきむしる彼に、はっきり言えと彼女は迫る。


盛り上がるコンサート会場の片隅で、彼と彼女は見つめ合った。


「好きだ、ずっと好きだった。」

「うん、知ってた。」

「なっ!! 」

彼は彼女の言葉に驚いた。


「女の感を、舐めるなよ。」

彼女はにっこりと微笑む。


「あんまり告って来ないから、こっちから告っちゃおうかと思ってた。」

「えっ? 」

驚く彼に彼女はしてやったりと笑う。


「お前、先輩のことが好きなんじゃ…… 」

「うん、好き。」

彼女は振り向いてあの人を見て、手を伸ばす。


真っ暗なコンサート会場を彼を応援するファン達がペンライトを光らせている。


まるで万面の星宇宙そらのよう。 


その中に一人光輝く、月。


「手にとどかない、憧れの存在。」

彼女はあの人にかざしていた手を彼に向ける。そのまま彼の腕に抱きついた。


「近くに手のとどく、大好きな存在がいるんだもの。」

「だ、大好き? 」

彼は真っ赤になって、驚きに声をあげた。


爽やかさで、時々渋味を感じさせる近くの彼。


まるであの帰り道のように。


手のとどかない月と、酸っぱさと栄養を与えてくれる近くのレモン。


「コレが本当の恋。」


会場を背にする彼があの人と重なり合う、そして彼女は思い出す。


初恋はやんちゃなであったことを。


「ふふっ。初恋はレモンの味て、いうでしょ。」


彼女はあの日のレモンの香りを思い出す。


あの日の月の光は、レモンの香りがしていたことを。


【完】


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