第10話 交渉

空間移動でゴンダラフはノゾミのスマホと、新品のモバイルバッテリーを手に「神の白い部屋」へと戻ってくる。


「アタシのスマホ、嬉しいです! これでいつでもお爺ちゃんに会えます。感謝です!」


「ちょっと失礼、確認をしたいのですが」


「? はい、なんなりと」


ゴンダラフは数秒間目を瞑り、目を開く。


「希美さん。あなたにお爺様はおりませんよね」


「はい。いません」


「これはどういうことでしょう?」


「これは勘違いさせましたね。血の繋がった祖父はいません」


「どういうことですか?」


「小学生5年の時、公式大会で将棋無敗を誇るアタシが初めて敗れたのが、プロ棋士である源 四五六ゲン シゴロウ6段でした。

それが縁で奨励会の編入試験を推薦してくれて努力と苦労の末に合格を勝ち取りました。


天涯孤独の源お爺ちゃんは将棋の師でもありライバル。

その関係以上に孫のように可愛がってくれ、お爺ちゃんのいないアタシにとって祖父同然の存在となりました。


残念ながら三段リーグで成績が伸び悩む最中、アタシが棋士になる前に病気で亡くなりました。

棋士になった姿をお爺ちゃんに見せたかった…。

最期までアタシの成長を、応援してくれたお爺ちゃん…。

短い間でしたが血の繋がり以上の絆と愛情があったと思います。

このアタシの思いに戸籍は関係ありますか? 血の繋がりは必要ですか?」


ノゾミの頬に涙。


「疑って申し訳ありませんでした」


「いえ、当然の疑問かと」



<ヒソヒソ>

「なあ、源さんって死んだ?天涯孤独?」

「生きてるわよ。孫も20人越えてるわよ」

「お得意のハッタリかよ」

「スマホに写真はあるでしょけど、よくスラスラと大ぼら吹けるわね…」


ノゾミは愛用のスマホとパック未開封のモバイルバッテリーを受け取る。


「これは新品? レシートあるならお金払います。かなり先の後払いになりますが」


「いえ、お金は必要ありません」


「まさかお店からパクっ…拝借? 

なんか神さまに無理強いさせてしまいました。ごめんなさい」


「気に病むことはありません。これは信心深くお爺様を愛しんだ、貴女の為の特別な行為です」


「有難うございます」 <ペコリ>


ノゾミは兄と姉を見る。


「神さま、いい神さまだね」


「…そ、そうだな」


ノゾミはゴンダラフに振り向く。


「宇宙を司る神様に窃盗など催促させる事に。これは規則や規律違反に当たるのではないですか?

あ、ごめんなさい。これはここだけの秘密ですね。いい神さまの担当でアタシたち果報者です」


「……そう言って、頂ければ」


「で、これが可能ならもう少しだけ希望する物、お願いできますよね?」


「許容範囲はここまでです」


「ボーダーラインなんてあるんですか?」


「今回の事は私の善意と受け取ってくれると嬉しいのですが」


ノゾミはモバイルバッテリーを手に、


「召喚や転移人に関しては納得はしたんですが、

人や星への干渉は神さま自身も干渉不可と言ってましたね。

今回の窃盗行為はどうなんでしょう?

禁則、規律、倫理に反していませんか?

もしこの事がバレたら拙いことになりませんか?

現神「ゲンダラフ」神さまの耳に入るとか?」


「脅しですか? あなたは私の善意を無下になさるのですか?」


「脅しなんてとんでもない」


「表に出ても問題になる事はありません。この程度は範囲内と受け止められることでしょう」


「犯罪行為が範囲内と? いまいちそこのところの定義が不明瞭なのですが」


「禁則事項です。答える義務はありません」


「「禁則事項」。都合の良い常套句ですね。

便利な言葉、アタシも多用したいものです。

神さまは……ん?

ゴンダラフ神さまは確か「10代目神龍予定ゴンダラフ神」と言ってましたね。

「予定」。この予定の意味するところは、まだ神さまの正式な権限や資格を得てはいないということなのでは?」


「………」


「それを自らゴンダラフ神と、神さまを自称。

これは神さまの「仮免」ということなのかな?

9代目神龍「ゲンダルフ」神さまが存在するのなら、

今現在神さまとは名乗るのは偽称行為なのでは?


それなのに堂々とアタシたちの前で神さまとイキり、謙虚な姿勢があるならまだしも、自分こそ神を誇示する姿勢。

いや、きっと神さま的ルールで神さまは複数存在しても問題がないのかもしれない…」


「………」


「いやー邪推でした。イキってるのアタシでしたわー。これは恥ずかしいですー。

でも9代目、10代目。ちょっと頭の回転の弱いアタシには混乱をきたしますね。

便宜上ここでは、

ゴンダラフ神、カッコ仮カッコ、さま、こう呼んでもいいですか?」


「………」


「ノ、ノゾミ……」

「アンタ、なにヒンシュク買わせてるのよ!」


「あなたの意図が理解できませんね。私を乏しめ不愉快にさせて得があるというのでしょうか?」


「不愉快にさせましたかー?」


「好きにお呼びになってけっこう、私は一向にかまいません。そろそろお時間ですね。神託を賜りましょうか」


「え? まだ話し合いは終わってませんが? 確かこう言いましたよね。


『説き伏せるのが私の仕事です』と。


説き伏せるとは強制と同義語でしたぁ?

説き伏せるとは、「説明して自分の考えや意見に従わせる」という意味。

少なくともアタシには従わせてはいないのですが。

この言葉、ゴンダルフ神(仮)さまはいつアタシを説き伏せましたぁ?」


睨み合う2人。


「ちょっと煽り過ぎでしょ!」

「すみません、神さま。コイツたまにおかしくなるんです。情緒不安定になるんです!」


「今すぐにでもこの小娘を強制的に排除したい、そんな表情ですね」


「………」


「分かりました。最後にアタシの疑念を答えてもらい終了といたしましょう」


「…疑念?」


「アタシたちは平凡な日常生活から、突然訳も分からず強制的にこの「白い部屋」へと召喚されました。

目の前には龍の冠を被ったコスプレみたいな見知らぬ男の人。


このような非現実的な光景を目の当たりにした時、

不条理で道理の合わない状況下に陥った時、

人は不安要素や憂いは取り除きたい。

この心理は神さまも同様かと思われます」


「………」


「アタシたちに何か伝える事ありますよね。

アクシデントで起こった不都合の件を。


ファースト・コンタクトで神さまはこう語りました。


『地球から召喚されし者よ、心して耳を傾けてください。

ここは宇宙の中心「神の白い部屋」。

そして私は10代目龍神予定のゴンダラフ神、……え? 3人?』


この「3人?」の、疑問符の件(くだり)のところです。


神さまは召喚時、兄を見て気が動転していました。

それから確認の為に何らかのチェックを行い、異変について思考。


困惑、焦燥、怒りさえのぞかせ、神さまの感情は目まぐるしく変化していました。


思考中幾度か呼び掛けましたがアタシたちの心情、胸中などお構いなしに差し置かれた状態。


長考の末、自らのミスを歪曲させ正当化させたような、無理矢理持論で納得させ、1人で合点したような面様。


動揺から一転、何事もなかったかのように真顔でアタシたちに接触」


「………」


「そんな動揺する姿を、醜態を目の前で繰り広げていたんですよ。アタシたちが不安で心許ないのは当然ですよね。


神に傾倒する信者でも不信感を抱き、懐疑の目を向けるというもの。


召喚した際、一体何事が生じていたのでしょう。

どのような葛藤があったのでしょう。

何を隠蔽しようとしていたんでしょう。


言えませんか?


それとも不都合な事情はたかが召喚された下等な地球人。

適当に遇し送り込めばいい、そのように軽く思われているのでしょうか?


アタシたちはこのまま異世界に為す術もなく放り込まれるのでしょうか?


『双方納得する話し合いをして、テラウスに送り出すことができるなら幸いです』


いやいや、ゴンダラフ神(仮)さまが納得しても、アタシ納得してませんから。

それ片側一方通行っすよ。


幸いです? ぜんぜん幸いじゃないっす。辛いっすよ」


「………」


「それともその発言を却下して「テラウス」に強制的に送り込みますか? 

事実、たかが小娘の挑発に一瞬どころか、何瞬も「強制」が頭をよぎってますよね?」


「………」


無言のゴンダラフは諦めたように、


「短絡的な行為、不適切な対応。心から謝罪いたします。

そして、あなたの推測通り、召喚前に不手際がありました。

ですがこの事実は後に述べようと、」


「あ、後出しはけっこうです。アタシが許容できないのは神さまの長考中での、

『神さまみたいな人ー。ちょっと不安になってきたんだけどー』 


その呼びかけに対し応えなかったこと。


『事故ったような顔だったよー』 『事故はありません』


質疑を否定したところ。


この人権無視の黙殺行為は神として、召喚者に対しての至当な対応だったと言えますか? 

不安に陥れそれを増長させたのは、神としての立場からいかがなものでしょう。

やはりこの者たちなら謀る事など容易いと軽く思われていた?


これが神さまの実態というのなら正直遺憾です。


それともここは地球とは価値観が大きく異なり、欺瞞や隠蔽は日常茶飯事に横行していると?


まさかこの欺瞞や隠蔽体質は現神「ゲンダラフ」さまの、こうあるべきという根本的なの考え、理念と?

まさかの現神「ゲンダラフ」さまの、指導や教育の賜物なのですか?」


「………」(汗)


「理念が現神「ゲンダラフ」さまと、ゴンダラフ神(仮)さまと剥離してるのなら、非があるのはゴンダラフ神(仮)さまということ。

現神「ゲンダラフ」さまの体面に傷をつける行為なのではありませんか?


ちょっと一言ありますのでクレーム案件として上司の現神「ゲンダラフ」さまを招致するか、お話しをさせてください。


アタシには呼ぶ手段も令する事もきません。

ここはゴンダラフ神 (仮)さまの良心次第です。


その手に持っているスマホで連絡がつきそうですね。


あ、さっきのスマホの怒気投げ、まさか現神「ゲンダラフ」さまからの連絡で、放り投げたのは、ゴンダラフ神 (仮)さまの不満の表れだったんでしょうか?」


「………」(汗)


「まあそこのところは興味も掘り下げるつもりはないです。安心してください。

では方法は問いません、現神「ゲンダラフ」さまとお話をさせてください」


ゴンダラフの腕がピクッと動く。


「おっと、今すぐにでもアタシたちを強制的に「テラウス」に送り込みますか?

手に力が入り、その表情から意思が読み取れますが?」


「………」(汗)


「それならそれで別に構いませんよ。

アタシたちが強制的に冒険者として「テラウス」星に送られた際は、

「タチテビ」領地の「リキズイ」という街で、

「ゴッド・ドラゴン・スピリッツ」の大聖堂に赴き、


神・龍・の・像・を・拝・み、現・神・ゲ・ン・ダ・ラ・フ・さ・ま・に、

日々の感謝の気持ちと、

今・回・の・一・部・始・終・を・伝・達・す・る・しかありませんね」


「………」(大汗)


膝をつき、土下座するゴンダラフ(仮)。


タケルとアヤカは、ノゾミを見てドン引き。


「土下座は不要。心中を覗けないその行為に何の意味もありません。顔を上げてください」


顔を上げ、立ち上がろうとする。


「あ、正座で」


「………」


正座に正すゴンダルフ。


――

10 交渉 終わり     (60)

11 蹂躙        (61)

――

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