第7話 民主化計画
執務室の椅子の背にもたれて、ポポは窓の外をじっと見つめていた。
政治家は国家をきちんと動かす義務がある――だが、それが自分であるという事実が、胃の奥を鈍くきしませる。
傍らで、二足歩行する猫妖精ニャーニャが尾をふわりと巻きながら問いかける。
「こんな夜に、何を考えているにゃ、ポポ様?」
ホムンクルスのメイドールがお茶を運んでくる。メイドールはゲーム内でたびたび出てくるモンスターだ。メイド服を着てマネキンのような顔をして、ホモンクルスやオートマタのモンスターで杖や斧などの武器をゲームででは持っていた。
ポポは小さく息を吐き、視線を手元のランプに落とした。揺れる炎が机上の報告書を赤く照らす。
「どうにかして、皇帝の椅子から逃げられないかなって」
ニャーニャは毛づくろいをやめ、首をかしげる。
「皇帝の椅子を蹴り倒して逃げる? 面白いにゃ」
「面白くはないよ」
ポポは苦笑した。
「じゃあ、どうやって逃げるにゃ? 神様にでもならないと、無理そうにゃ」
「神様になっても、政務はやらなきゃいけないでしょ」
ポポは再びランプの炎を見つめる。
「じゃあ、他の人物に任せて、あがめられるようになればいいにゃ」
「それ、前の世界の『民主主義』とか『立憲君主制』に似てるね」
ポポは淡々と机の縁に小さな肘をつき呟く。
「民主主義も問題だらけだった。成功した国も、たいてい失敗の連続で……経済が悪ければ崩れるし、国民に民主主義の意識がなければ機能しない。実際、民主化に失敗した国なんて山ほどあった」
ニャーニャはふさふさの尻尾を揺らし、言った。
「きっと、陛下が『神』だって信じさせれば、誰も疑わずに国がまとまるにゃ」
ポポは少し考え、口を開く。
「民主主義を手に入れるための『神話づくり』か……目指すは『象徴皇帝』だね」
内心で自分に言い聞かせる。
「大丈夫。YouTubeの『ゆっくり妹の経済学講座』も『アメリカ通信』も、ちゃんと観た……ことがある。あの世界で積み上げた知識は、この国でもきっと役に立つはず」
頑張れ、来る前に見たネット動画たちよ。
*****
「民主主義に必要なものは何だろうね」
「わからないにゃ」
「近代国家じゃないと民主主義もないだろうから、官僚気候や政治機構は必要だよね」
「優秀な人材が必要だニャ」
「知性のあるモンスターから選ぶしかないか、あ……」
ポポは椅子から小さく跳ね上がるようにして立ち上がった。
「そうだ、任せられるのは……あいつらがいた」
ニャーニャがキョトンとした顔になる。
「……にゃ? 誰にゃ?」
ポポは机の地図を指で軽く叩く。
「六大魔神だ。ゲーム内ではゲームストーリで、各ステージのラスボスして登場していたけど、知性と力は折り紙つき。政務にだって十分使えるだろう」
「にゃは、ラスボスを政務に使うんだにゃ。ちょっと怖い気もするにゃ」
「怖がる必要はないよ。命令系統さえ整理すれば、きちんと動く、たぶん……」
ニャーニャが小さく頷く。
「大丈夫かニャ?」
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