第5話おじいちゃんの料理

「ねぇねぇ、この貝殻、おっきくない?」

 陽葵が手にしたのは、手のひらいっぱいに広がる白い巻き貝だった。波に磨かれて角が丸まり、螺旋の内側がかすかに虹色に光っている。


「うん、まぁ確かに。形も綺麗だし、いいじゃん」


 最近の子どもたちの間では、“綺麗なもの”こそが価値らしい。夏休みが明けると、学校でこっそり物々交換が行われるという。陽葵も例に漏れず、そのためにこうして浜辺で貝殻を集めている。


「これはどうだ? だいぶいいと思うんだが」


 僕が少し離れた岩陰で見つけた、ツヤのある小さな二枚貝を見せると、陽葵の目がぱっと輝いた。


「確かにいい!けど、瞬は自分の分はいいの?」


「まぁ……でも、これはやるよ」


「いいの? ありがとう!」


 海に反射した太陽の光が、陽葵の横顔を照らした。帽子の影からのぞく笑顔が、波よりもまぶしく感じられた。


 


*** 


「おじいちゃ〜ん、ただいま〜!」


「おう、帰ったか。今、夕飯作ってるから、それまでに宿題しておきなさい」


「はーい」「はーい!」


 廊下を走る音が畳に弾ける。風が通り抜ける縁側の匂いが、夏そのものだった。


「瞬〜、これ分かる?」


「ここはね、こうすればいいんだよ」


「え〜すご〜い。前はめっきりできなかったのにね」


「授業受けてたら、できるよ」


「ふーん、真面目〜」


「ご飯だぞー」


「はーい!」


 食卓には、黄色がたくさん並んでいた。とうもろこし、かぼちゃ、ひまわりのように大きく切られた卵焼き――。まるでこの家の“ひまわり農家”らしさを詰め込んだような、明るくてやさしい色たちだった。


「いただきます!」


 一口ごとに、心まで満たされていく。誰かと一緒に食べるという、それだけのことで、料理がこんなにも美味しく感じられるなんて。


「ごちそうさまでした」


「誠治さん、皿洗い手伝いますよ」


「いいのかい? ……それより、今日の料理、どれも美味しかったろう」


「はい、ほんとに。特にとうもろこしご飯、最高でした」


「今日のそれはな……母さんが昔、よく作ってくれたんだよ」


 そう言って笑う誠治さんの顔は、立っている僕からではちょうど見えない。身長の差で、見えるのは目元だけ。けれどその目が、ほんのり濡れているようにも見えた。


「いつもはひとりで寂しいが……こうして二人が来てくれて、元気が出るよ」


 その言葉が、嬉しさからなのか、それとも寂しさからなのか。僕には、まだ分からない。


「手伝い、ありがとうね」


「どういたしまして」


「おやすみなさい」


 障子の向こう、山の稜線が夜の闇に溶けて、のっぺりと浮かんでいる。柔らかいようでどこか不気味で、少しだけ怖く感じた。

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