第4話畑仕事2

「最初は、間引きからやってもらうぞ」


誠治さんが土にしゃがみ込みながら言った。


(間引きってことは……中腰確定演出じゃん)


身体が小さくなったとはいえ、地面と向き合う作業は容赦なく太ももに負担をかけてくる。しゃがむだけで、普段使っていない筋肉が悲鳴を上げた。


「こうやって、混みすぎてる芽を間引いていくんだよ。ほら、こうだ」


土をかき分けながら誠治さんが見せる手際の良さは、まるで長年の儀式のようだった。手慣れた動きに、僕はただ「はい」と返すことしかできない。


「きゃぁぁぁあああっ!! でっかい芋虫ぃ!! 瞬、助けてぇ!」


陽葵の叫び声に思わず振り返ると、彼女の前の葉の裏には、堂々たる緑色の芋虫がうねうねと居座っていた。


「いや、俺も虫ダメなんだってば!」


「ウソっ! 去年は取ってくれたじゃん!」


(去年……?)


思わず息が詰まった。やばい、このままだと、また違和感でバレる。どうにかして誤魔化さなきゃ。


「コラコラ、こんなのは叩けばいいんじゃよ」


そう言って、誠治さんがスコップの背で軽く土を打つ。ポトリと落ちる芋虫。陽葵は思わず後ずさりしながらも、安心したようにおじいさんに礼を言う。


「おじいちゃん、ありがとう〜。てか、瞬も助けてくれてもいいじゃん!」


「喧嘩しない、喧嘩しない。さ、続きやるよ」


「はーい……」「はーい」


無邪気に返事をしながら、作業に戻る。間引きって、想像以上に体力を使う。土の重さも、日差しも、全部が地味に身体を削ってくる。


(くそ……これ、意外ときついな)


やがて一通りの間引き作業が終わり、僕は丘の傾斜に体を預けるようにして寝転び上を見上げても変わらぬ快晴、止まぬ蝉時雨、


奥を見ても動かぬ山の木々

と対称的に靡く少女の黒髪。まるでそこにしか

スポットライトが当たってないみたいだ。


「そろそろ、昼ごはんにしようか」


誠治さんの声に、僕は身体を起こした。


渡されたのは竹の葉に包まれたおにぎりと、冷たいお茶のペットボトル。


すぐ近くの木陰に腰を下ろそうとすると――


「瞬、待ってよ〜。一緒に食べようよ」


「……しょうがないな〜」


少し狭い木陰だった。二人が並ぶにはぎりぎりの距離。ここで断ったら、何か気づかれてしまいそうで、それが怖かった。


「ねえ、瞬さ。今年、ちょっとテキパキしてない?」


「そうか? ていうか、食べ物口に入れながら喋らない方がいいぞ」


「うわー、急に真面目ぶるし〜!」


(……今のって、探りを入れられた?)


笑ってごまかしたけど、陽葵の言葉の裏に何かを感じた。もしかしたら、彼女はすでに何かに気づいているのかもしれない。


「まあまあ、お前たち、ゆっくり食べて休んでから、自由に遊んでおいで」


誠治さんはそう言い残して畑へ戻っていった。


「どーいたしまして、ってね」


陽葵がにこにこと笑う。その笑顔が、今は少しだけ、怖かった。


(遊ぶって……何するんだよ、こんな田舎で)


「遊ぶなら、2人で遊ぼー!」


「そうだね……どこで何する?」


「木登りとか、虫取りとか? ほら、海岸歩くのも楽しいし!」


(どんな昭和の遊びだよ……)


でも、なぜかそのどれもが「懐かしい」と感じてしまうのが、また不思議だった。


「とりあえず、丘の方に行こ〜!」


陽葵が元気よく駆け出す。僕は少しだけ手加減しながら、その背中を追いかけた。


向日葵はずっと南を向いていた。

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