第4話 復讐の力

「・・・・・・お前は、誰だ?」

「わしの名か?わしは『四つ巴の魔王』の1人、西を総べる魔王、『ベルゼブブ』と言う。まあそんな事はどうでもいい。力が欲しいか?」


 力?


「その力があれば、あいつらに復讐が出来るか?」

 そう問うとベルゼブブは気味の悪い笑みを浮かべて答えた。

「ああ、そなたが力を極めたらそいつらはもちろんの事、この世界だって滅ぼせるぞ。」


 あいつらに、復讐・・・!


「力を与える、と言ったな。その話、飲もう。俺に力を寄越せ!!」

「そう焦るな。タダでやるわけでは無い。条件はわしに攻撃を当てる。わしのHPを1でも減らすことができたなら、お主の望む復讐のための力をやろう。」

「・・・二言はないな?」

「もちろんじゃ。はよう来い。」



「くっ!なんでだよ!当たってんのに、なんでHPが減らねぇんだよ!!」

「かっかっかっ。ほれどうした?当たっておるんじゃぞ、もっと気合いを入れんかい。」

 もう何十発も殴った。なのに全然減らねぇ!


 硬すぎる、コイツ相手にただ殴ったって無意味だ。どうすれば、どうすればコイツのHPを減らせる?

 俺に使えるのは残り少ない魔力とE級の雑魚スキルだけ。なんでこんなスキルなんだよ!影なんか使えたって荷物持ちにしか・・・・・・、影?


 これなら、アイツのHPを減らせるか?

 危険すぎる。だが、もうこれしか方法は、ない!!


「うおおぉぉ〜〜〜〜!!!」

 全身に魔力を流し、狙いをカモフラージュする。

 影が具現化されているだったら、出来るんだろ、出来ないとは言わせねぇ!!

「喰い千切れ!『暴食グラトニー』!!」

 影を拳に纏わせ、相手のHPを、喰らう。

「・・・・・・なっ!わしのHPが、喰われた・・・、じゃと!」

 決まった。残ってる魔力を全て使って作り出したぶっつけ本番の技。でも、魔力が、もう・・・


「くっ、くっくっくっ!あははははは!良いぞお主、実に面白い。気に入った!よかろう、お主に力をくれてやる。すまぬが、対価としてお主の左腕を貰うぞ。」

 ベルゼブブが何か言ってるが、もう体力が、限界だ・・・。

 意識を飛ばしかけていると突如、左腕に耐え難い激痛が走った。

「ぐ、が、あぁ、ああぁ・・・!」

「約束は果たしたぞ。いずれまた会おう、ハルト。」

 薄れゆく意識の中で、そんな声が聞こえた。


「・・・・・・つ!!」

 次に目が覚めた時、俺は暗い洞窟の中にいた。

「ここは、何階だ・・・?」

 ギルドカードから階層を確認すると、そこには、

「101階・・・!ははっ、これは、悪い夢なのか・・・。」

 だが、目線を下げるとそこに左腕はない。

「・・・やっぱり、夢じゃ、ない・・・?」


 ぼうぜんとしていると、遠くから魔物と思われるモノの声が聞こえた。

「ッ!に、逃げないと・・・。くそ、なんで俺がこんな目に・・・!!」

 この地獄から抜け出して、あいつらに復讐する。その信念を胸に秘め、生き残るために立ち上がった。復讐するために、そして1人の少女に会うために。



 時は流れ、1人の勇者が死んだ日から1ヶ月が経った時、トーカたちは再び、この迷宮に挑もうとしていた。

「清光さん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。」

「確か影鷹くん、だっけ?残念だったよね。事故で死んじゃうなんて。」

「・・・・・・」


 そう、なぜかハルトの死は事故、という風に認識されている。それは彼、伊集院 爽真によってアタシ以外の全員が洗脳されているから。

 私のスキルは彼の"将軍"のスキルと同格、彼の能力がアタシにかかる事はない。

(ハルト・・・・・・)

 ハルトが繋いでくれた命を、アタシは絶対無駄にしない。



 今回は前回と同じ50階層からスタート。

「みんな、注意してね。またなにか罠があるかも・・・」

「心配しすぎだよ。調べた所、このフロアに罠はない。さっさと行こう、清光さん?」

「・・・そうね。伊集院くん。」

 今は我慢よ。ここで言ってもなんにもならない。堪えるのよ。


「おい皆、これって宝箱じゃね!開けてみようぜ!」

「待って皆、まずは罠の確認を・・・」

 だが時すでに遅し、罠宝箱トラップボックスは転移罠を発動させ、悲劇のあの場所へ全員を転移させた。


「おい、ここってあの・・・」「あんたシーフでしょ!罠くらい解除しなさいよ!」「今度こそ、俺らは終わりなのか!」

「皆落ち着きなさい!!今はこの場所からの脱出、それが最優先よ!伊集院くん、お願い。」

「ああわかった。それじゃあ全員僕の元へ・・・

 転移の準備をしていると突然前の階層に続く扉が開き、たくさんの魔物がなだれ込んできた。


「チッ!皆、橋の奥に避難して転移の準備を!私が殿でコイツらを食い止める!!早く行って!」

 魔物の前に出ながらそう指示する。

(準備が終わるまで耐えるだけ、いける!)

「絶対全員で、生きて帰る!」


 しばらく魔物の群れの中で耐えていると、後ろから「準備が出来た、戻れ!」と聞こえた。

「分かっ、ッ!」

 目の前の魔物だけ斬ろうと剣を振るうと、剣は魔物に止められ、動きが止まってしまった。

「おい清光、早く戻・・・・・・っ!!」

「っ!!」

 誰かがそう叫ぶと同時に、下へ続く扉が音をたてて開かれた。

 そこへ現れたのは、その姿も歪むほどの魔力を放つなぞの男だった。

 一つ分かるのは、ただものではないという事だけだった。


「・・・・・・お前ら、クラスの!!」

 ドスの聞いた声が辺りにこだます。

「ヒィッ、て、転移!!」

「ちょっと待って、まだ私が・・・」

 そう咄嗟に言うが、もう『転移の鈴』は使われ、2人を置いて全員がその場から消えた。


(み、見捨てられた・・・・・・)

 目の前には大量の魔物、後ろにはその魔物共よりも恐ろしい男。生きる確率は無しに等しい。

(ごめんね、ハルト・・・・・・)

 そう死を覚悟した瞬間、

「喰らい尽くせ、『全テヲ喰ラウ者ベルゼブブ』!」

 黒い手が頭上を通過し、アタシの上に乗っていた魔物もろとも全てを倒した。


 喰らうとも表現できる攻撃をした男はアタシに近づいてきて、こう尋ねた。

「お前、大丈夫か?」

 ずっと聞きたかった、あの人の声で。

「ハ、ハルト・・・・・・。」

 そので、アタシの意識はプツンと途切れた。

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